今や日本は選択肢の一つにしか過ぎない
他方でインドネシア側は日本の独占ではコストが高く技術的にも疑問があるとして以前から英国やフランスのプロジェクトへの参加を呼び掛けてきた。G20終了直後にMRT東西線のフェイズ3に韓国が入札参加表明したことを運輸大臣が歓迎する談話が発表された。日本メディアの反応は日本の独占的立場が崩されると警戒する論調であった。
S氏に感想を聞くと日本がインドネシアでプロジェクトを独占できると考えること自体が時代錯誤であり間違っていると。スハルト時代からそれに続く軍人政権時代はアジアには日本しか先進工業国家がなかった。欧州もアジアに進出する余裕がなかった。他に選択肢(competitor)がなかったので日本が大型プロジェクトを独占できたのだと厳しく指摘。
現在では中国、韓国、インドなどのアジアの工業国、さらには欧米もアジアに力を入れている。つまり日本は選択肢の一つに過ぎない(just one of them)とのS氏の指摘を日本の関係者は真摯に受け止めないと第二、第三の予期せぬ大型プロジェクトの失注を招くのではないかと危惧する。
S氏はインドネシアが日本に対して期待するのは金融大国である日本が中国のように官民でコンソーシアムを組成してインドネシアに対して投資型経済協力、つまりプロジェクト・ファイナンスを提案することだという。しかし日本側からはポジティブな反応は聞こえてこないようだ。
日本の国連常任理事国入りを支持しないアジアの国々、日本への警戒感
インドネシア人に聞くと日本に対して少なからず警戒心を抱いている人が少なくない。第二次大戦における日本のアジア地域の占領が未だに尾を引いているのだ。2005年当時国連改革の機運があった。常任理事国入りに小泉首相以下政府一丸となって邁進したが、ASEAN各国からは一か国の支持も得られなかった。中国・韓国が大反対するのは当然予想内だったが、日本が長年巨額の経済協力をつぎ込んだASEAN諸国から拒否されたのは日本政府にはショックだった。
S氏は大学で国際関係論を専攻したので日本の常任理事国入りについて聞いてみた。S氏はそもそもASEANがリーダー不在の緩い集合体であり、インドネシアもマレーシアもタイも重要課題では仕切れないと解説。そして内政干渉が大原則ゆえ、ミャンマーの軍事政権の暴政のような大問題についてもコンセンサスが得られない。ところがASEAN各国は日本がアジアで突出した存在になることに対して基本的に警戒しており、各国が暗黙の裡に対日警戒感を共有しているという。従い結果的にASEANから全く支持が得られなかったのは不思議ではないと明言した。
S氏の話を聞きながら経済面でも政治面でも日本がアジアの盟主という幻想は遥か遠い過去のものであると思った。