薬についても混乱が続いている。ファイザーの経口コロナ薬「パクスロビド」は備蓄量が少なく争奪戦となった。インドから密輸入されたジェネリック薬も高値で取引されている。
また、感染爆発を受けて中国政府はファイザーと交渉したが、薬価引き下げ交渉に失敗した。そのため今年4月以降は保険適用外となり、服用する場合には全額自腹負担となる。
ともかくドタバタなのだ。「夏休みの最後に泣きながら宿題を片付ける派」の筆者はまるで自分を見ているようで辛いのだが、長期計画を立てるのは弱い代わりに追い詰められた後の闇雲な根性で帳尻合わせするのは、個人から企業、そして政府にまで共通する中国あるあると言えるのではないか。
噴き出すデマと不信感
気になるのはこのドタバタぶりを中国人はどう見ているのか、だ。あまりの無策ぶりにあきれかえっているのではないか。中国共産党の統治に落胆しているのではないか。そう思うのも普通だろう。
習近平政権の権威が一定程度傷ついたことは間違いない。過去10年間にわたり、習近平政権は世論統制能力の強化に努めてきた。政府の権威を高め、メッセージを信頼させるという目標は成果を収めてきている。
コロナ対策においても「塗炭の苦しみを味わっている日米欧の人民に比べれば、中国人民はしっかりと守られていて幸せだ」という社会のムードを作り出すことに成功した。また、しっかりと手洗いをしよう、科学的根拠のない感染対策はやめようといった科学啓蒙、医学啓蒙についてもある程度は効果を上げていた。
突然のゼロコロナ撤回とその後のドタバタによって、この積み上げてきた権威と信頼が崩れ去った。そのがれきの下から再び現れてきたのは過去と変わらぬデマと不信感だ。
年越しの際、中国各地で豪快に爆竹、花火を鳴らす人々が出現したことが話題となっている。爆竹、花火は大きな音で災厄を追い払う避邪の力があると中国では信じられているが、大気汚染の要因となるため、大都市部では使用が禁止されている。それが「コロナを撃退するには爆竹しかない」と騒ぐ人々が現れた。目撃者によると、警察も止めようとしなかったという。
他にもデマはいくらでも沸いている。「お酢を沸かして空間殺菌」「桃缶を食べれば病は恐くない」といった謎の民間療法から、「新たな変異株は下痢を引き起こすので下痢止めを買い占めよ」という話まで、ウソ、大げさ、紛らわしいデマが飛び交っている。民間の噂話ばかりか、中国共産主義青年団の公式ソーシャルメディアまでもが「コロナの熱を和らげるツボ、教えます」といった謎情報をシェアする始末。
こうした、懐かしいデマ世界の復活は世論統制の緩みに起因していると見てよい。