2024年12月5日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年1月18日

それでも中国共産党の危機にならない

 では、この緩みは中国共産党にとっての危機になるのだろうか? ゼロコロナを貫くと宣言した舌の根も乾かぬうちの手のひら返し。その後の準備不足が招いたドタバタ。そして、今現在進行しているであろう大量の高齢者の死。いずれも政権の正当性に疑念を抱くに十分な材料に思えるが、それが体制危機にはつながらないというのが筆者の見立てだ。

 というのも、中国のソーシャルメディアのリサーチや、中国人からの情報収集でも、怒りよりもあきらめを感じるからだ。ゼロコロナ対策に対する抗議活動「白紙運動」のような怒りは間欠泉のようなもので、一時は盛り上がっても持続させることは難しい。

 ましてや、今の中国では若く健康な人にとっては一度感染すれば、後はゼロコロナ対策よりもよっぽど自由で快適となる。高齢者や基礎疾患を持つ人、そしてその家族にとっては不安な日々が続くが、そうした少数派の苦しみに寄り添うムードは社会にはない。

 神戸大学の梶谷懐教授との共著『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書、2019年)では、現在の中国の統治思想が功利主義に親和性を持つことを指摘した。監視国家化に傾斜する中国だが、それは多くの人民が日々苦しみにあえぐ強圧的な社会ではなく、少数の人々の犠牲には目をつぶることで大多数の人々は豊かで秩序だった幸福が与えられる社会である。

 ゼロコロナ解除後の中国もまさにこの構図にあてはまりそうだ。高齢者や基礎疾患を持つ人々を排除することによって、大多数の健康な人々は長いコロナ禍から脱出し日常を取り戻す。この状況が社会不安につながるかどうかは損をしない大多数の人々が、苦しむ少数派の人々に共感するかどうかにかかっている。

 しかし、今の中国では少数派の悲哀は検閲によって覆い隠されている上、多数派の人々は少数派の苦しみをなかったことにして生きていくことに慣れている。ここに中国共産党の統治の強靱さがあるのだろう。

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