ロシアと敵対できない理由
こうしたイスラエルに対し、ユダヤ系住民を抱えるウクライナはイランのドローンを撃墜する防空システム「アイアン・ドーム」の供与を要請しているが、イスラエルにはロシアと敵対できない理由があり、拒否せざるを得ない。その理由とはシリアにおける「制空権」をロシアと共有し合っているからだ。
シリアの「制空権」は事実上、アサド政権を支援するため進駐しているロシア軍の支配下にある。しかしイスラエルにとって、隣国のシリアに駐留するイラン革命防衛隊やシリア政府軍の陣地など敵対勢力を空爆できるよう、シリア上空を自由に飛行する必要がある。そのためにはロシア軍からの「黙認」が必要だ。これがないと、撃墜されたり、両軍機が衝突してしまいかねない。
ネタニヤフ氏ら歴代の首相がロシアのプーチン大統領と良好な関係を築き、ウクライナ侵略でもロシアを非難しないのはこのためだ。ネタニヤフ氏によると、イランは革命防衛隊の将軍指揮下で10万人の「シーア派部隊」創設を進めており、イスラエルにとっては座視できない状況だ。今後もシリア空爆を続けるにはプーチン政権との良好な関係が不可欠なわけだ。
かといってユダヤ系住民がおり、不倶戴天の敵であるイランのドローン攻撃に苦しむウクライナに支援の手を差し延べたいのはやまやまで、ロシアを刺激したくないイスラエルにとっては大きなジレンマだ。バイデン政権からもウクライナ支援に踏み切るよう強い圧力を受けている。
イスラエルのコーヘン外相は近く、ウクライナを訪問する予定だが、この際、ウクライナのゼレンスキー大統領はイスラエルにロシアの侵略を公式に非難するよう迫る見通しだと伝えられている。ロシア、ウクライナ、イラン、そして米国を視野に入れながら、イスラエルがどのように動くのか、注目の的だ。