モサドはこれまで、イランの核施設や軍需工場への攻撃、科学者の暗殺など〝影の戦争〟を仕掛けてきた。2020年1月の革命防衛隊コッズ部隊の英雄ソレイマニ司令官が米軍に暗殺された際に重要情報を提供したとされるのもその一環だし、その年の7月と翌年のナタンズの核施設攻撃、21年6月のテヘラン近郊カラジの核施設攻撃、昨年2月のドローン工場攻撃といった一連の攻撃もモサドの作戦といわれる。
これに対しイラン側もペルシャ湾でイスラエル船籍のタンカーを攻撃するなど両国の武力による応酬が懸念されてきた。加えて中東では、今回のモサドの作戦にCIAも関与していたとの憶測が飛び交っている。エルサレムポストが専門家の見方として報じたところによると、CIAのバーンズ長官が攻撃2日前にイスラエルを訪問したのは、作戦をすり合わせるためだったのではないか、というのだ。
ポンペオ元CIA長官の暴露
また、イスラエル軍と米軍は攻撃直前にイラン攻撃を想定した軍事演習を1週間にわたって行っており、このこともCIA関与説に真実味を与える理由になっている。事実ならば、イランの核施設への軍事攻撃に慎重だったバイデン政権も、イランがロシアに自爆型の〝カミカゼ無人機〟多数を供与し、ウクライナ攻撃を支援していることを深刻に受け止め、イスファハン攻撃に深く関わった可能性がある。
CIAがモサドの作戦に関与した例はこれまで明らかになってはいなかったが、イスラエル・メディアによると、ポンペオ元CIA長官が最近出版した著書『Never Give an Inch』の中で、2つのスパイ組織の協力関係を初めて暴露した。18年2月、ポンペオ氏が欧州のある都市に到着した時、コーヘン・モサド長官(当時)から緊急連絡が入った。
ポンペオ氏は専用機内に戻って親密だったコーヘン氏と盗聴防止電話で話した。その際、コーヘン氏から「テヘランで極めて重要な作戦を実施したが、チームを脱出させるのにトラブっている。助けてくれないか」と求められ、即座に快諾した。CIAが作戦チームと接触し、24時間以内に安全な隠れ家に誘導、2日以内にイランから脱出させたという。
この時のモサドの作戦は明らかにされていないが、時期的に言ってテヘランの秘密倉庫への侵入作戦だったと見られている。モサドはこの作戦で、イランの核開発を裏付ける極秘資料を入手し、ネタニヤフ首相が大々的に発表した。コーヘン氏は後に、イランの治安部隊が侵入チームに肉迫していたことを明らかにしているが、両組織がイランに対する破壊工作で協力し合っている実態が浮き彫りになった。