2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年2月17日

 このような事態を招いた背景には、カスティージョ個人の問題に加えてペルー政治が小党分立化し、2016年のクチンスキーの当選以来、大統領の与党が議会にしっかりした足場をもたず、大統領弾劾制度が政争の手段となってしまった政治的構造の変化がある。

 しかし、1月末の時点で、抗議活動に関連する死者は58人に達し、その要求は、カスティージョの解放のみならず、ボルアルテ大統領の辞任と議会の閉鎖、即時の選挙、さらに憲法改正を主張している。

 また、当初、抗議活動は、地方農民や先住民の貧困層、労働組合、学生などの自然発生的なものとみられたが、その後、道路封鎖や空港の占拠のみならず、警察署や州の司法長官の事務所、銀行の襲撃やリマでは歴史的建造物への放火など極めて暴力的となっており、アンデス高原地域からリマに大勢の先住民を動員するなど、大掛かりなものとなっている。

歩み寄りは困難 さらなる過激化の動きも

 50人以上の死者が出ていること自体が非人道的な異常事態であり、本来、政府側と抗議運動の指導者との対話が必要であるが、抗議運動の要求は対話により歩み寄れる性格のものではなく、また、誰が抗議運動を代表するのかも分からない。

 議会が、もう一度、2024年4月に選挙を行うことを議決すればそれが憲法手続き上は最終的なものとなるが、反政府側は、抗議運動をさらに過激化することにより政府・議会を追い詰め、特に憲法制定議会の招集を実現しようとしているようであり、事態は予断を許さない。

 いずれにせよ、50人を超える民間人の死者を出したボルアルテは権力に固執しないとして、先週末大統領・議会選挙を、さらに今年12月に前倒しするよう提案したが、議会内左派は、併せて憲法制定議会開催についての国民投票を要求してこれを拒否した。

 議会で多数を占める中道派及び右派は、本来3割以下の得票率しかない急進左派のペルー・リブレ党が、現在の抗議活動の盛り上がりを背景に早期選挙により権力奪取を図ろうとする意図を警戒しており、このままでは、ボルアルテが当事者能力を失い事態が行き詰まることが懸念される。

   
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