2024年12月14日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年2月17日

Kachura Oleg/Gettyimages

 在ペルーの英国人ジャーナリストのテーゲルが、ペルーの政治危機の根源は汚職体質にあり、この問題に取り組まない限り政治的混乱は解決しないと米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」のウェブサイトに1月24日付で掲載された論説‘The Real Reason Behind Peru’s Political Crisis’で論じている。

 12月にカスティージョ大統領が失脚し抗議デモが発生した時、その背景には長年にわたり農村部の貧困層を無視してきたペルー政府の政治体制に対する不満の鬱積があることが広く理解された。

 ほとんどの分析では、この騒乱の原因は、歴史的な不平など、先住民族に対する差別、持続不可能な中央集権主義にあるとされる。そしてカスティージョ自身がカンペシーノ(土地を耕すアンデスの血を引く人々)であることから、この構造的な問題に取り組むことを期待された。

 激しい抗議活動は、アイデンティティ、経済的格差、そして、市場主義の経済モデルがこの20年間の好景気の恩恵を公平に分配できなかったという失政に結びついている。さらに、世論に嫌悪されている議会による突然の解任が、期待を打ち砕く最後の一撃となり、今日のような事態を招いたのも確かである。

 しかし、この分析では不十分だ。ペルーの深刻な政治危機を真に理解するためには、腐敗の蔓延に注目すべきだ。腐敗は、経済発展を遅らせ、教育や医療から治安に至るまで、あらゆる部門で公共政策の実施を妨害し、人種、階級、地理上の溝を深めている。腐敗は、公的機関の人事が縁故で行われることによりますます悪化している。

 ラテンアメリカで深刻な汚職問題を抱えているのはペルーだけではないが、この問題はペルーの民主主義を特に蝕むものだ。

 現在、元大統領の内、フジモリは人権侵害で収監中、カスティージョを含む5人が汚職容疑で捜査中、ガルシアは、逮捕される直前に自殺した。

 議員たちは、肥料不足による食糧危機の深刻化などの失政を真剣に監視することは無かった。同時に、超保守的な議会多数派と極左的なカスティージョ支持の少数派との間の数少ない一致点の1つが、反改革である。議会は、選挙資金に関する処罰など、政治を浄化しようとする試みを何度も弱めてきた。

 ペルーの混乱の根底にある差別と不平などの問題は否定できないが、何よりも、民主主義が腐敗に食い荒らされている。デモ参加者は、即時の大統領と議会の選挙といった政治的な解決策を要求している。しかし、包括的で厳しい腐敗防止策を伴わない改革は、この国が切実に必要としている長期的な解決策をもたらすことはない。

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 ペルーのカスティージョ大統領の罷免・逮捕に対する抗議運動は、クリスマス、新年を挟んで再燃し、未だ鎮静化の兆しを見せていない。

 英国人ジャーナリストのテーゲルは、ペルーについて欧米メディアにしばしば投稿し、人権、民主主義の視点にたち、ペルーの汚職体質の問題を指摘してきた。確かに、腐敗の問題がペルーの経済発展の妨げとなり政治に対する不満の大きな原因であることは事実である。しかし、腐敗は、ペルー政府が直面している深刻な状況の直接の或いは主要な原因とは言えないであろう。

 12月以来の政府に対する抗議活動の背景には、論者も認める通り、農村部・先住民の長年の貧困問題や国内格差、首都リマ中心の既成の政治体制などに対する鬱積した不満の存在があるが、これが、コロナ・パンデミックと最近の世界的なインフレ、特に肥料、燃料、食料価格の上昇によりいわば臨界点に達していた特殊事情もあり、カスティ―ジョ弾劾・逮捕を引き金として火がついたものである。


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