ボルソナロが人事などにおいて軍人を徹底的に優遇したことも軍人一般の中に過去の時代の軍人の役割復活への潜在的期待を目覚めさせた面も無視できない。
しかしながら、軍内部を含めて、このようなボルソナロのアナクロニズム(時代錯誤)的発想に対する拒否反応や批判もあり、国際的にも全く孤立することは明らかであることから、ルーラとしては、1月の暴動事件に対する国民の強い批判が冷めないうちに、政権と軍部の正常な関係を再構築するための効果的な措置を取るべきだとの指摘は説得力がある。
このためには、まず、暴動を扇動し助長した知事や閣僚、関係した軍人や軍警察の隊員の責任が司法により厳正に解明され処罰されることが不可欠である。
ボルソナロの今後の動きに要注意
ボルソナロが、このような暴動事件の背後にいることは間違いなく、スティーブ・バノンなどの元トランプ側近らのインフルエンサーの助言に従っている疑いがある。その意図としては、国民にボルソナロ支持派の不満と軍に対する期待があることをアピールし、今後ともルーラ政権に揺さぶりをかけ、軍人サイドにはボルソナロ時代に得た特権的地位をいずれ取り戻したいとの期待を持たせることにあるのかもしれない。
いずれにしても、ボルソナロは、ルーラによる反撃を織り込んで、次回の選挙において軍人の不満を梃子に活用しようとしている狙いがあるかもしれないので要注意である。
ルーラとしては、軍人にその立場をわきまえることを徹底するために必要な制度改正と自覚と良識ある幹部を登用し軍部を掌握する人事政策が必要であるが、一般軍人に対し必要以上の不利益を与えたり、その役割を軽視して反発を招かないように留意する必要があろう。
一方において、独裁軍事政権の人権侵害に関する未解決の問題があり、他方で、軍の政治介入に関するノスタルジーや期待があり、ルーラ政権にとって、軍との関係を適正にコントロールすることは、政権運営上軽視できない問題であることは確かだ。