ビティは、「EU加盟国が反中姿勢を強めるにもかかわらず、EUは危険な対中貿易依存を削減する政策手段を打ち出せないでいる」と言い、重要技術の規制、EU本部と加盟国との権限問題、EVなど欧州域内の産業育成、中国など国家補助金を受けた企業との取引の規制などに言及する。
そして、「EU本部と加盟国は、スローガンを華麗なレトリック以上のものにするために、正確に的を絞った手段を定め、それを使うように取り組む必要がある」と結論する。この記事を読むと、EUの対中政策が後追い、断片的で、戦略を欠いている状況が分かる。今やグローバルな問題である中国につき、日本は欧州との対話を強化し、協力して対処していくことが重要である。
ビティは、今年7月に発効する外国補助金規制制度につき、効果的な使用と運営をすることが必要だと指摘する。新制度により、中国の補助金を受けた中国企業の域内活動(合併・買収、公共調達への入札)を EU 委員会が審査し、問題がある場合はそれを阻止することが可能となる。これにより先端企業の買収などへの歯止めは一応できるようになるだろう。
対中半導体輸出規制の交渉には、EUではなく、半導体製造装置メーカーのASML社があるオランダが参加している。進化途次にあるEUの制度的悩みの表れである。今後も実利的対応は不可避だろう。関税や貿易交渉の権限は、基本条約により、EUの排他的権限とされているが、産業政策などそれ以外は共有権限などとして加盟国の権限に残っている。
蚊帳の外に置かれるWTO
今や重要貿易問題は世界貿易機関(WTO)の場外で扱われている。あまり良いことではない。国際秩序の安定の観点から見ると、やはりWTOを大事にし、必要に応じ規則を改正するか、あるいは新協定を作ることなどにより適応することが望ましい。
WTO 非協力の意味では米国にも責任がある。しかしながら中国などその他の加盟国を含めて合意ができるかと考えると、覚束ない。中国のWTO加盟の交渉時、もっと厳しく議定書交渉をしておくべきだったのかもしれない。
当時、中国の将来を楽観視し過ぎた。中国が国際協調に変われば氷解するが、何とも難しい時代になってしまった。唯一の出口があるとすれば、WTO内で複数国間の枠組みをもっと利用していくことかもしれない。しかし WTO はそれに耐えうるか。国際機関における中国の影響力が大きくなっている点も注視しなければならない。