2024年4月30日(火)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年2月28日

 中国財務省が公表したこれら4つの部門の予算総額は、14億ドル(2020年)で、中国公安部とほぼ同額であることがわかるが、UFWDの予算については全く公表されていない。ワシントンのシンクタンクであるジェームズタウン財団の推計によると、19年のUFWDの支出は26億ドル以上としており、中国外務省の予算を上回っているが、実際は、それよりも遥かに多いとの見方もある。

 この魔法の武器が今、過去に例をみないほど活発に活動をおこなっているのだ。

中国共産党を脅かす5つの毒

 中国共産党が、その支配を脅かすと信じている「5つの毒」と呼ばれているものがある。それは「ウイグル人」、「チベット人」、「台湾独立支持者」、「民主主義活動家」、「法輪功精神集団」である。

 これらの毒を排除するためにUFWDは、それらの人々に迫害を加え、プロパガンダを繰り返してきた。その活動は主に中国国内であったが、近年、中国の国際世論の形成や中国人ディアスポラ(Chinese Diaspora)の活動の監視と報告に注力している。ディアスポラとは「離散した民族」という意味で、「離散中国人」とも呼ばれる。具体的には華僑や中国人留学生、中国人ビジネスマンなどの中国国外にいる中国人を指す。

 UFWDの中国人ディアスポラの監視活動は、スペインの人権監視団体セーフガード・ディフェンダーズが公表した昨年9月に公表した報告書「110 OVERSEAS Chinese Transnational Policing Gone Wild 」でいうところの「中国海外警察」が担っている。

 中国海外警察は、欧米など53カ国、102カ所の海外拠点(海外警察署)を擁し、表向きには世界的な腐敗防止キャンペーン「キツネ狩り作戦」を行っているとしている。「キツネ狩り作戦」とは、習近平が総書記に就任した12年から開始された、海外に逃亡した汚職官僚を追跡し、国内に連れ戻す作戦を指すが、その実態は中国の反体制派を、家族を脅迫するなどして中国に送還することである。

 米連邦捜査局(FBI)とカナダ安全保障情報局によると20年から21年にかけて、およそ680人が中国に送還されたとしている。これらの人々とは中国共産党が作成したブラックリストに掲載された人々であり、宗教施設に出入りしている者や反体制派の集会に参加した者などさまざまである。キリスト教の洗礼を受けた7歳の子供もブラックリストに載っていた例もあり、年齢制限はなさそうだが、そもそもこのブラックリストがどのようにして作られ、ブラックリストから削除される条件があるのかなど謎は多い。

 中国人にとっては、永久に危険人物となるかもしれない恐ろしいリストであるが、UFWDの活動は、中国人ディアスポラの監視だけではない。西側諸国の最先端技術情報や企業機密情報を入手するために行われた「千人計画」をはじめとして、「千粒の砂」と呼ばれる中国の諜報戦略に動員される華僑、学生、学者、研究者、ビジネスマンは多い。

 「千粒の砂」とは西側諜報機関が中国の諜報活動を例えて使用する言葉だ。海岸に落ちている砂の一粒が機密情報だとすると、ロシアのスパイは夜中にブルドーザーで1回に大量の砂を持ち帰り、中国は大勢の工作員が協力者とともに砂浜に寝そべり、背中についた砂を持ち帰る作業を何十年でも繰り返すのだという。事ほど左様に中国の諜報活動は、発覚しにくいという特徴がある。

 そのうえ組織としても官僚組織と違い、政府系非政府組織は、柔軟で素早いという利点がある。ロシアのウクライナ侵攻当初の失敗は、ロシア連邦保安局(FSB)、対外情報庁(SVR)、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)といった諜報部門の対立が指摘されている。また、米国においても中央情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI)、国防情報局(DIA)、国家安全保障局(NSA)などの諜報部門を複数抱えているために、縄張り意識や権力争いの結果として、あまりスムーズに行かないという官僚組織特有の問題がある。

 UFWDの場合は、2015年に「領導小組」を設け、習近平自らその委員長を務め、習近平の個人的な指示をUFWDに直接とどくようにしたことから、比較的運営はスムーズなようだ。


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