2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年3月20日

「爆買い」から変わる目的

 だが、2015年の「爆買い」ブームの前から中国人のインバウンド事情を取材してきた筆者の印象では、かつてと同じような「爆買い」はあまり起こらないのではないかと考えている。

 かつての「爆買い」とは、団体旅行が中心で、東京の浅草や銀座などに大型観光バスで乗りつけ、免税店や土産物店で大量に買い物をする、あるいは、大型クルーズ船でやってきて、数時間だけ買い物をする、といった姿だったのだが、それは、ブームから2~3年後には、すでに様変わりしていたからだ。

 当初、訪日中国人観光客は、ざっくりと団体旅行が7割、個人旅行が3割だったが、コロナ直前の2019年には個人旅行が7割と逆転し、その行動パターンも変容していた。中国人の所得が増え、団体よりも自由度が高い個人の観光ビザを取得できる人が増加したのだ。

 彼らは何度も日本旅行をするリピーターなので、一度に大量買いする必要がない。年齢層も20~50代くらいまでと幅広く、経済的にも余裕がある。

 ネットを使いこなして情報収集を行っており、誰もが知っているような東京ディズニーランド(TDL)、浅草、銀座、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などはむしろ避ける傾向がある。むろん、そうした場所に絶対に行かないというわけではないが、行くとしても、「浅草の仲見世通りから1~2本通りを隔てた場所にある隠れた名店」など「知る人ぞ知る」場所に行く傾向があるのだ。

 「爆買い」の後、SNSが猛烈な勢いで発達し、海外旅行は彼らの自慢のネタの一つになったが、誰もが行けるような場所に行っても、もはや自慢にはならないからであり、また、誰もが行ける場所は団体旅行でも行ける場所なので「うるさい中国人団体客と一緒になりたくない」と洗練された個人客は考えるからだ。

 だから、東京でいえば下北沢、自由が丘などのカフェや専門店、地方でもインスタ映えするマイナーな場所、自分が「中国人として一番乗りできるようなレアな場所」のほうが、逆に人気がある。

多くはコト消費にシフト

 買い物をするにしても、同じ商品を何個も買う、転売目的で大量に買う、といった消費ではなく、本当によいものを自分のために買う、といった消費の仕方に変わってきた。

 また、全般的に、買い物などのモノ消費よりも、体験や癒しなどのコト消費にシフトしてきている。中国でもネット通販で「モノ」は買えるが、体験や癒しなどの「コト」はネットでは買うことができない。

 コロナ禍前にもすでにそうした傾向は顕著となっており、目新しい話ではないが、コロナで3年以上、日本に行けなかった分、冒頭でも紹介したように、彼らの日本に対する「期待値」は高まっており、たとえば高級温泉旅館への宿泊、高級和牛の焼き肉などのグルメ、スキー、キャンプ、グランピング、釣りなどのレジャー、体験にお金をつぎ込みたいという欲求が相当大きくなっている。


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