世界への影響力強化のもくろみに冷水
習近平主席にとっては、3月の全国人民代表大会(全人代)で、前例を破って国家主席に3選された後、初の外遊だった。
中国は、ウクライナ侵略1年を機に、和平に向けた12項目の提案を含む文書を発表。全人代に時を合わせてサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介し、中東で強い影響力を維持してきた米国を出し抜いた。
その余勢をかってウクライナ和平の調停を実現し、「社会主義現代化強国」(全人代閉会時の習主席の演説)として、国際的な影響力を強め盤石な体制を作り上げるのが習主席の目論見だった。
これに冷や水を浴びせたのが、国際刑事裁判所(ICC)によるプーチン大統領への逮捕状だ。訪露を延期したくても出発直前とあって、それも不可能だったろう。
中国はICCに加盟しておらず、ロシア、米国、ウクライナも、その基本を定めた規程の批准を見送っている。プーチン大統領がロシアにとどまる限り、身柄を拘束されることはないとはいえ、日本を含む123カ国のICC加盟国を訪問した場合、逮捕される可能性があるという事実は重い。
日本に対して厳しいコメントをすることが多い中国外務省の汪文斌報道官は、首相のウクライナ訪問について「日本には緊張を緩和する行動をとることを望む。逆のことをしないでほしい」と控えめなコメントをしただけ。ロシア外務省のザハロワ情報局長が、「米国の論理と圧力」で実行され、中露首脳会談への関心を薄めるため、故意に時期を合わせたなどと噴飯ものの批判をしているのとは大きな違いだ。
自らのバツの悪さがにじんでいると感じるのは思い過ごしか。
ロシア包囲網を広げた大統領の勝利
今回、ゼレンスキー大統領は岸田首相の訪問を外交辞令抜きで歓迎した。首相一行がポーランドから乗った専用列車には護衛のウクライナ軍関係者があふれ、入念な警備態勢が敷かれていた。
共同記者会見で大統領は「岸田首相は、国際秩序における真の守護者だ」と最大限持ち上げてみせた。共同声明でも日本側の意向を容れ、「ロシアの侵略は、欧州・大西洋地域だけでなく、インド・太平洋地域の平和、安全にとって脅威」という中国念頭の一節を加えることに応じ、北京の和平プランも一蹴した。
ウクライナから見れば、日本は遠い極東の国であり、ロシアの侵略直後、ウェブによる大統領の国会演説や首相との電話会談は欧米各国と比べると迅速さを欠いていた。しかし、アジアのリーダー、G7議長国である日本の首相の訪問は、ロシア包囲網が欧米にとどまらず、アジアも含めた全世界に名実ともに広がる効果をもたらし、国連決議などでロシア非難への同調を躊躇している多くの国をひきよせることができれば、プーチンを一層孤立化させることにつながる――。
ゼレンスキー大統領の胸の内に、遠謀があったことは容易に想像がつく。