2024年4月27日(土)

WEDGE REPORT

2023年3月26日

首相は安どするだけでなく、〝異次元〟の支援を

 岸田首相は昨年来、機会を探っていたキーウ訪問を現実のものとし、安堵したことだろう。5月のG7広島サミットまで実現せずじまいだったなら、議長として居心地の悪い思いをするところだった。

 各国首脳が、キーウ市内、市民多数が虐殺されたブチャの惨状、ゼレンスキー氏の人物評定などで論議を交わす時、ひとり蚊帳の外におかれ、気まずい雰囲気によって議論の停滞を引き起こす恐れすらあったろう。

 しかし、ゼレンスキー大統領との首脳会談ですべてが終わったわけではない。和平実現に影響力を行使する外交力が日本にあるかどうかは別として、今後のウクライナ支援をどう進めて行くかという差し迫った課題がのしかかる。

 首相は今回、あらたにインフラ支援に4億7000万ドル(611億円)、北大西洋条約機構(NATO)の信託基金を通じて3000万ドル(39億円)の支援を先方に伝えた。インフラ支援としてコンテナ型ガスタービン、移動式発電所などが含まれるが、装備品をどこまで供与するかが問題だ。

 日本は侵略直後、ヘルメット、防弾チョッキ、地雷探知機など殺傷能力のない装備品を供与したが、欧米各国が最新鋭戦車の提供などを決めていることに比べれば、憲法、防衛装備品移転3原則などの制約があるとはいえ、見劣りがする。

 日本政府も、こうした現実を打開しようと、〝ヘルメット・防弾チョッキ以上、殺傷兵器未満〟の装備品について検討を始めている。 具体的品目などについては明らかにされていないが、ウクライナから日本側に要請されている資材には、銃の照準器、夜間戦闘に威力を発揮する暗視ゴーグルなどが含まれており、こうした装備が中心となる可能性がある。

 広島G7サミットで、具体的な支援方針を明らかにしなければならないが、それまで、あまり時間がない。ヘルメット、防弾チョッキの供与については、政府部内でも移転3原則に抵触するとの懸念があったが、運用指針を見直すことで実行に踏み切った経緯がある。

 首相が「今日のウクライナは明日の東アジアだ」と真剣に懸念するなら、大胆な方針転換が必要だろう。今はやりの言葉で表現すれば、まさに「異次元の支援」だ。それができて初めて、岸田首相は、ウクライナをめぐるパワーゲームでの勝者となるだろう。

   
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