それでもまだ米国の国防支出は世界全体の国防費の40%を占める膨大な額であるが、バイデン政権はこれまでインフレ率を下回る国防予算しか提案しておらず、それを増額しているのは議会側だというのも、若干気になる話だ。そして、欧州と日本の国防費支出を巡る基本的対応を変えるには、残念ながらウクライナ戦争のような危機が必要だったというのが現実である。
「抑止のための再軍備のリスクは、相手がそれを挑発と捉えることだ」という指摘があるが、軍拡を続けてきたのは相手方であり、それに対応することを更なる軍拡の口実にするのは筋違いだ。上記の通り2010~20年に米国防費がほとんど増加せず、支出累計の伸びが鈍化していた一方、中国の国防費の伸びは驚異的で、同じ2010~20年の間に2.4倍になっている。これは、年平均17%以上の伸びである。
求められる国民への説明
第二に、この社説の主題である、国防費増が福祉・教育などの他の支出に与える影響であるが、「西側政府は新たな軍拡が何を意味するかにつきまだ国民に説明を始めてさえいない」というのは重要な指摘である。ということは、昨年来の岸田政権による防衛費増額の原資に関する議論は、増税議論の不人気を承知の上で政府としてあるべき正直な問題提起を行ったものとして高く評価されるべきだろう。
詳細は今後の議論が必要だが、将来に向けた基盤的支出である防衛費を国債発行という借金ではなく、経費削減と最低限に必要な増税で賄うと言う大枠が既に決まっていることの意味は大きい。
最後に、国防費増はようやく始まったが、抑止すべき「対象」において未だ「空白」がある。最近になって報道されるようになったが、アフリカに対する中国の進出はここ数年で始まった話ではなく、対応ぶりも過去の失敗から学びながら日々進化している。
ロシアの進出はまだ一部に限られているが、中央アフリカなどにおける歴史は長い。「裏庭」に責任を持つという考え方から言えば、日本が東南アジアの平和と繁栄に対して継続的に努力し一定の成果を上げてきたことに比べ、欧州全体としてのアフリカへの関与は大いに不十分だ。ウクライナ戦争を奇貨として、この空白に対して欧州が対応することが望まれる。