2024年12月22日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年4月4日

 「一部の日本側指導者は、いわゆる《秩序》を大いに語っている。ならばわれわれはそれをビリビリに引き裂いてやる! 今日の世界秩序は世界反ファシスト戦争の勝利の上に築かれており、それに挑戦する歴史修正主義を中国は絶対に受け入れない!」

 「米国側のいう米中関係のセーフガードや衝突回避とは、中国側を縛って転倒させ手足も出させず、罵られるままに口ごたえもさせないようにすることだ。しかしそうはさせるものか! 米国が偉大であるならば、別の国が発展するのを受け容れる雅量を持て!」

 王毅氏に代わって新たな中国の外交部長に就任した秦剛氏は、去る3月8日に催された記者会見の場で、およそ職業外交官の洗練とはかけ離れた表現で、「開かれたインド太平洋戦略」を通じた日本の役割拡大と対中批判、ならびに国際的な連帯を説く米国の戦略を切り捨てた (中国外交部公式HP所載全文の語感をそのまま直訳した)。

 このことは、昨今の日米をはじめとした西側諸国による規制強化の結果、今般の全国人民代表大会(以下、全人代)での政府活動報告が示した「さらなる外資・外国技術の導入によって中国の自立・自強を進め、高度科学技術における争奪戦に勝利し、サプライチェーン自立を強靭化し、製造強国を実現する」という方針に暗雲が垂れ込め、中国経済そのものの再起にも問題が山積しているという吐露に他ならない。

ロシアによるウクライナ侵攻から1年を経て、習近平国家が訪露した意図とは(ロイター/アフロ)

 その「中国の秩序は認めよ。外国が示す秩序は受け入れられないし、かつての振る舞いを忘れて正義ぶった者が示す秩序はなおさら受け入れられない。ただ単純に貿易の自由は認めよ。強き者は競争相手に少しは手加減せよ」という狼狽は、あたかも20世紀の世界史でいつか見た光景である。

 しかし習近平思想は、内外におけるさまざまな強権への批判を「国情」の名において決して受け入れないばかりか、ごく当たり前な人間の尊厳をも「反人権」と切り捨てるものであり、現在進行形で世界の姿を確実に不安定なものにしている。しかも中国は、「自立・自強」と「多極化」の名において囲い込んだ「圏域」「共同体」によって、既存のグローバリズムを圧倒しようとしている。

 その可能性に米国をはじめ西側が次第に気付き、しかもロシアのウクライナ侵攻に対して中国が明確な立場を示さないことが、西側の危機感を強めていることの意味を、中国は真剣に考えるべきであろう。

 とは言え筆者の見るところ、「中国中心の多極化グローバリズム」を掲げる習近平思想の立場は、ロシアのウクライナ侵略1周年を機に、ロシアと西側の間で逡巡するのを止めたのかも知れない。習近平政権は西側への憎悪、そして「多極化した新型国際関係」における同志国ロシアの戦略的立場への配慮のため、何一つ侵略されたウクライナの側には立っていない。しかも「侵略戦争は許されない」という、そもそも中国自身が(特に日本に対して)掲げている規範を自ら損ねつつある。


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