2024年5月6日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年4月4日

ウクライナを犠牲にする中国

 実際、3月21日に発表された「中露新時代の全面戦略的協力パートナーシップの深化に関する共同声明」は、目下のところ習近平政権の発展観・文明観・グローバル観の集大成の一つとなっている。要約すると、以下のように言う。

 多極化された国際秩序が加速度的に形成され、新興国と途上国の地位が増強され、グローバルな影響力を増している。その中から、自国の正当な権益を断固として守ろうとする地域大国が増え、米欧中心の覇権主義・一方的なやり方・保護主義の横行に反対するのは当然である。

 「法の支配に基づいた秩序」なるものによって、一般的な国際法の原則にとって代わることは受け入れられない。

 「民主主義が権威主義に対抗する」という西側の言説は虚偽である。(筆者注:ゼレンスキー政権もまたこのような言説によりウクライナ国民を鼓舞している以上、習近平思想はウクライナとの対立を暗に覚悟したことを意味する)

 各国の歴史・文化・国情は異なり、いずれも自主的に人権と発展の道を選択する権利がある。他者よりも抜きん出た「民主」は存在しない。だからこそ世界の多極化を実現し、国際関係を民主化すべきである。中露両国はその実現のためのパートナーである。

 総じて習近平思想はプーチンとともに、これまで人類社会がさまざまな摩擦や葛藤を繰り返しながらも次第に確認しあってきた普遍的価値を否定し、力を持つ者が自らの論理を内外で強め、物質的発展と勢力圏拡大を目指すという事実こそが普遍的であると言わんとしている。そのような国々が互いに一目置きパワーシェアリングすれば「多極化された国際社会の民主化」だという。

 したがって習近平氏が、自らの強権や誤った政策のために苦しむ人々の声に耳を傾けることはないし、侵略されたウクライナの痛みを共にするとも思えない。

 既に習近平氏は国内において、「これこそが中華民族共同体意識であり、中国の人権と発展観念である。外部勢力の干渉を拒否して中国の正しい声を受け入れれば誰もが幸せになれる」と称して人々を動員・参加させてきた。そして反発する人々に対しては「外部勢力の影響を受けた分裂主義者・極端主義者への打撃」と称して、一切の容赦なき鉄槌を下してきた。

 そしてプーチン・ロシアも「東スラブ民族の共同体意識」を説き、ウクライナが「米国やNATOの悪影響から脱し、ロシアの声を受け入れれば幸せになれる」と称して侵略を続けている。

 このように、習近平・プーチン思想は、彼らが影響力を持つと称する範囲において、過酷なガバナンスを通じて思想を統一するという点でも、多極化した世界において西側の影響を排除した「圏」を確立するという点でも、極めて似通っている。

 習近平思想の立場は、仮にロシアに対して直接の軍事支援はしないとしても、プーチン思想を擁護し放置し続けることによって、ウクライナの永続的な犠牲と引き換えに成り立つ「多極化世界」を享受しようとしている。少なくとも、ロシアの侵略が引き続くことになれば、西側とロシア双方が莫大な戦費を使うことになり、相対的にみて中国の軍事的プレゼンスに寄与する。また、ロシアは確かに資源を擁する大国であり、完全に衰退する可能性は恐らくない中、それでも今後は中国に依存しながら生きる「弱小な極」であり続けるならば、中国主導の多極化世界構築と「国際関係の民主化」にとって有利である。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、岸田文雄首相のキーウ電撃訪問で日本の強い支持を得たのを受けて、習近平をウクライナに招待した。しかし恐らく、習近平氏はウクライナ国民一般に響く言葉を持たないはずである。


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