2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2023年4月19日

WSJ記者を逮捕

 ロシアでは3月下旬、モスクワに駐在していた米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のエバン・ゲルシュコビッチ記者が不明瞭なスパイ容疑で逮捕される事態も発生した。米国人記者がスパイ容疑によりロシアで逮捕されたのは、ソ連崩壊前の1986年に逮捕されたUSニュース&ワールドリポートのニコラス・ダニロフ記者以来の出来事だ。

 報道関係者の逮捕は外交関係にも甚大な影響を与えるため、今回の事態は西側メディアに強い衝撃を与えた。ソ連崩壊後に自由化されたロシアでの海外メディアの活動が、これほど明確に当局の標的になったことはなく、米露関係が冷戦時代の対立状態に戻ったことを強く印象づけた。

 86年に逮捕されたダニロフ氏はスパイ活動とは何ら関係がなく、旧ソ連国家保安委員会(KGB)が罠として送り付けた「国家機密」と記載された文書が入っていた封筒を明けてしまったために、当局に逮捕された経緯がある。最終的にダニロフ氏はソ連のスパイとの囚人交換で米国に帰国した。

 ゲルシュコビッチ氏はWSJの記者として、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」や、ロシアの軍需産業の実態を報じようとするなか、ロシア中部エカテリンブルクで突然逮捕された。ロシア側は、ゲルシュコビッチ氏が米当局に情報を流していたと主張しているが、米側は一切否定している。

 ロシア外務省の高官はゲルシュコビッチ氏の処遇をめぐり、ロシアが囚人交換に応じる可能性を指摘しているが、仮に実施されるとしてもゲルシュコビッチ氏をめぐる裁判が終了した後としており、年単位で時間がかかる可能性もある。

 ゲルシュコビッチ氏をめぐる一連の事態からは、ロシアが西側メディアに対し、これ以上ロシアの内情に迫る報道を容認しないという強いメッセージが伝わってくる。外交関係者と異なり、不逮捕特権がないジャーナリストは、裁判で有罪になれば長期の懲役を免れない。仮にスパイ容疑で有罪となれば、同氏は20年程度の懲役刑が課される可能性もあるという。今後、西側の主要メディアがモスクワから脱出する動きが加速しそうだ。

背景にロシア軍の苦境か

 プーチン政権が米国や西側メディアとの対立を表立って先鋭化させる理由のひとつには、ウクライナにおける前線での苦戦が続くなか、米国に対し対抗姿勢を見せ続けるのと同時に、苦戦の理由が米国という「外敵」にあると国民に繰り返し訴え、その責任を西側諸国に押し付ける意図が伺える。

 侵攻開始から2年目に突入するなか、ロシア軍は依然として前線の膠着状態から抜け出せないままでいる。英国防省は4月上旬、ウクライナ東部ドネツク州でロシア軍を指揮していたルスタム・ムラドフ司令官が「解任された可能性が高い」との見方を、SNSを通じて示した。現地メディアは、解任されたとも報じている。

 ムラドフ氏はドネツク州で戦闘を展開するロシア統合軍グループ「ボストーク」のトップだ。3月にショイグ国防相がウクライナの前線を視察した際には、同氏のもとを訪れるなど、ウクライナにおける軍事作戦における同氏の役割の重要性が伺えた。

 ただ同氏が手掛けた作戦では、膨大な数のロシア軍の死傷者が出ていたとされ、同氏の手法を疑問視する声が上がっていた。特に、2月に行われた東部ブフレダルでの攻防戦では、ロシア軍はわずか3日間の作戦で戦車36両を含む100以上の主要装備を失い、100人規模の部隊で8人しか生き残らなかったなどと現地メディアで報じられている。ムラドフ氏の命令のもと、地雷を避けるため無理な隊形で突進を試みたことが原因とされるが、東部での戦況が打開できない状況が続くなか、焦りで無理な作戦を遂行した可能性が伺える。


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