2024年7月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年4月24日

 中国の第一の狙いであるグローバルサウスに対して平和実現の担い手としての中国の役割をアピールすることについては、ウクライナ和平提案においても穀物の輸出の促進が謳われており、特に戦争により生じた経済的困難を解決する上で南の諸国からの期待が追い風になっている。この論説では、提案が実を結ばなくても中国は失うものは無いとしているが、西側としては、グルーバル・サウスの期待感を中国がより責任感を持ってウクライナ和平に取り組むような圧力に転換したいところだ。

 第ニ点の中国が和平提案を欧州連合(EU)との関係改善に活用しようとしているとの見方は注目に値する。中国側に米国との関係悪化を埋め合わせる意味でもEUとの関係改善の強い動機があり、EU側にも経済面での中国との協力が自国経済の活性化にもつながることから、相互に必要とする余地がある。従って、EU側としては、関係改善と引き換えに、中国がウクライナ問題に対してよりバランスの取れたアプローチを行い、ロシアに影響力をかけるよう交渉の余地があるかもしれない。

ロシアに対する抑止となるか?

 中国の12項目の和平提案には、国連憲章の原則や国際法の順守、主権、独立、領土保全の支持(第1項)、停戦のための敵対行為の停止(第2項)、和平交渉の再開(第4項)、人道的危機の解決(第5項)、民間人の保護(第6項)、原子力発電所の安全、(第7項)、核兵器の不使用(第8項)、穀物輸出の促進(第9項)といったロシアの更なる侵略行為や残虐行為を抑止する効果を持ち得る条項が含まれている。

 これらの部分をベースに、例えば、習近平がウクライナ側の言い分も聞くべくセレンスキーと会談すべきこと、あるいは、第1項の趣旨からすればロシア軍の撤退を要求すべきことなど、中国側に要求することが、間接的にロシアに対する抑止的効果を持つかもしれない。

 第3点は、ウクライナの戦後復興において中国の役割を確保する狙いがあるとのことであるが、そのような状況が来るとすれば大変結構なことだ。ウクライナとしては、中国の資金援助や投資を受け入れても、EU加盟や安全保障についての考慮は変わらないであろうから、それが中国の復興支援と両立するのであれば大歓迎ということであろう。

 EU側としては、中国批判派のバルト諸国やチェコと云ったメンバーもいて、対中関係改善に一枚岩ではないが、フランスやドイツは、米国のデカップリング(分断)政策とは一線を画し、中国との経済関係の継続と引き換えに、中国に対しウクライナ問題に対するより中立的なアプローチを要求するのであろう。

 同時に、戦略的自律という建前論と中国との冷戦構造を求めないとして、中国との信頼関係の構築に努めようとするようであるが、EU内でのコンセンサスや北大西洋条約機構(NATO)における米国依存という現実との間でのバランス、更には、中国の人権問題の扱いなどにも気を遣う必要があり、西側同盟とG7(主要7カ国)の協調の枠内で進めてもらう必要があろう。

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