・22年10月、米商務省が、高度コンピューター・半導体関連企業による対中輸出を認可制とする抜本的規制措置を打ち出すと同時に、その狙いについて「米国の国家利益防衛と、中国による軍事転用可能な先端半導体製品の購入および製造能力を制限するため」と説明。中国政府側は「わが国企業の正当な権利と利益を損ない、米側輸出企業の当然の商業的利益に打撃を与えるものだ」と猛反発、これら措置の即時停止を要求
・23年2月、米空軍が大統領命令により、米国南東部上空を通過中の中国スパイ気球を撃墜。中国外務省が「国際慣行の深刻な違反行為」だとして激しく非難すると同時に、「対米報復措置」を言明
・23年3月、米商務省が「ロシアの軍事・防衛産業に手を貸し、人民解放軍近代化を支援している」として、新たに中国企業28社を輸出規制対象リストに加える
上記のように、バイデン政権下の対中国政策は、対話より明らかに対抗色の濃いものになりつつある。米財界で中国問題に詳しいモルガン・スタンレー・アジアのスティーブン・ローチ前会長も最近、「バイデン氏は前大統領以上に中国に厳しい態度を見せている。欧州、豪州から日本に至る同盟諸国に対し、高度半導体チップ市場からの中国締め出しを働きかけているのはほんの一例に過ぎない」と指摘している。
「対決は恩恵を生まない」との数々の懸念
米国内外の有力メディアの間でも、両国関係を懸念する論調が出始めた。
まず、米紙ニューヨーク・タイムズは去る3月11日、先陣切って「中国との対決で誰が恩恵を受けるのか」と題する以下のような社説を掲げた:
「米国は過去半世紀の間、経済および外交的関与を通じ、あるいはトランプ前政権の場合、関与撤回を通じ、中国を変えようと努めてきた。しかし、バイデン政権は対照的に、変化を促す政策そのものを断念し、中国の動きを封じることに期待をつないできた」
「ホワイトハウスはこれまで、対中貿易の制限、軍事転用可能な高度技術への中国側のアクセス拒否、過去に中国の参加を促してきた各国際組織からの撤退、中国近隣諸国との関係強化に乗り出し、過去数カ月では、半導体の対中輸出制限、豪州による核原潜保有許可を決定した。総じて、中国を『米国国益に対する増大する脅威』と位置づけ、有力共和党議員を含め、主たる軍事、外交政策機関、経済界の支持も得つつある」
「一方、中国が近年、南シナ海と台湾海峡において軍事的攻勢を強め、挑発的行動に出ようとしていることは事実であり、自制が求められる。ただ、中国は『超大国』の基準からすれば、〝引きこもり主義者homebody〟と言ってもよく、対外攻勢はとくに近隣地域、それも主として経済的なものにとどまっている。また、米国との対決姿勢に関しても、中国指導部全体が必ずしも一本にまとまっているわけでもない」
「米中関係は多くの問題を抱えつつも、毎日、何百万件という正常かつ平和的な相互関与の紐帯で結ばれており、気候変動などのような共通の諸問題対処で共同行動を起こすための十分な根拠を提供している。両国はともに、国内的に所得不均衡、高齢人口対策、就労より自由気ままな暮らしを求める若者たちの急増、移民流入問題など多くの共通課題を抱えている……米国にとっての究極の国益は、国の繁栄と世界との関与であり、過去数十年の経済成長も世界貿易によって支えられてきた。中国との対決や健全な競争の制限では断じてない。この点では、中国も同様の立場だ」
続いて英国の「Economist」誌も去る4月1日付けの論評で、「米中対立が新たな危険局面に向かいつつある理由」と題し、主として中国側の立場から以下のように論じている:
「米国は、習近平体制による一党独裁、国内人権抑圧、対外的膨張主義の動きに対する対抗措置として、対中貿易デカップリング(切り離し)、アジアにおける軍事的対中封じ込めに乗り出してきた。しかしこれは、中国指導部にとっては、体制転覆のためのたくらみにも相当するものであり、米国は比類なき強大な〝例外国家〟として世界に君臨し、中国が『太ったトラではなく太った猫fat cat not fat tiger』にとどまる限りにおいてその存在を容認するかのように振舞っている。中国は対抗上、脇を固め、軍事力を増強せざるを得なくなる」
「通商面でも、米国は半導体などの対中輸出に制限をかけ、テクノロジー面での絶対優位性を維持するために、中国の技術革新を引き留めようとしている。だが、一人当たり国内総生産(GDP)で米国を83%も下回る国がなぜ、主要技術へのアクセスを拒否されねばならないのか――米国の封じ込め政策はアンフェア以外の何物でもない、と中国側で受け止められている」