2024年4月27日(土)

バイデンのアメリカ

2023年5月17日

 「両国間の平和を担保するためには、外交のみでは不十分だ。そこで、米国および同盟諸国は今後、①経済的対中デカップリングは最低限にとどめる、②台湾情勢含め戦争リスクの軽減に努める、③中国をさらなる専制独裁体制へと追い込むことを回避すべく慎重に振舞う――の3原則を順守していくべきである」

中国で増幅しつつある「エコーチェンバー」

 さらに最近になって、米政権の厳しい対中姿勢が、実際に中国国内の対米強硬派を刺激、その「反響効果」が増幅されることで、習近平体制を抑制の効かない危険なレベルに駆り立てかねないとする指摘も出ている。

 米外交専門誌「Foreign Affairs」5月9日号(電子版)は、このような中国国内で広がりつつある反米機運について、「エコーチェンバー echo chamber」(反響室現象)の表現を用いた中国人研究家Tong Zhao氏の踏み込んだ見方を伝えている。

 それによると、習近平氏が過去数年来、米国の覇権と民主主義拡大の動きに対する公然たる反感をあらわにし始めたことを受け、中国の学者、知識層、言論界では、①米国が台頭する中国封じ込めのために台湾をめぐる軍事危機をあおりつつある、②米国の対ウクライナ戦略の主たる狙いはロシアの弱体化にあり、同様に台湾危機をそそのかすことによって中国を主たる競争相手の座から引きずり下ろすことを企図している――との見方が広がっている。

 台湾問題についても同様であり、習近平氏が武力行使も含む「台湾統一」を国家目標に掲げて以来、世論は武力統一を求める強硬派が支配的となり、共鳴しあって党中央部に圧力をかける「エコーチェンバー」効果を生み出している。

 一方で強硬派は、現実に台湾有事となった場合の中国国民全体に及ぼす短期、中長期的リスクと影響について過小評価している。この結果、習近平指導部が実際には、台湾に対する性急な軍事侵攻を意図していないにもかかわらず、危険な行動に駆り立てられることにもなりかねないという。

 「Foreign Affairs」誌記事は、こうした悲劇を回避するために、米国および西側同盟諸国として、中国側強硬派の動きに乗じた軍事的対応に出るのではなく、国際情勢の安定化こそが双方の国益であることを中国政府首脳部のみならず、良識ある専門家、知識人たちに粘り強く説得していく必要がある、と結んでいる。

 一方、去る14日付けの読売新聞報道によると、欧州連合(EU)も、近く改定予定の「対中国戦略文書」の中で、(台湾有事を念頭に)「一方的現状変更の試みを阻止する必要」に言及すると同時に、「中国は経済的なパートナーであり、EUとしては(米国による)デカップリングにくみしない」として、米中間の緊張が必要以上に高まらないよう努力するとの方針が初めて明記されたという。

 この点では、わが国経済界も同様の立場であり、政府としても今後、揺るぎなき日米同盟の結束を固めつつも、中国国内でいたずらな「エコーチェンバー」の増幅を招くことのないよう、慎重な対中アプローチが求められよう。

   
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