大きな政府と小さな政府だけではない対立
ではなぜ債務上限問題が発生するのだろうか? 実はそもそも債務上限が定められたのは、連邦政府が資金調達を柔軟に行えるようにするためだった。
連邦政府が発行できる国債残高の上限が初めて定められたのは、1917年に制定された第二次自由国債法だった。それまでは、国債を発行するには目的と金額を明確にした上で(例えばパナマ運河を建設するためにいくら必要、という形で)、その度ごとに議会承認を得る必要があった。だが、米国が第一次世界大戦に参戦し、緊急で予想外の支出が必要になる可能性が出てきたことから、債務上限を設け、その範囲内であれば財務省は国債を自由に発行できるようにしたのである。
だが、近年では状況が大きく変わった。米国が福祉国家化して社会支出が増大し、軍事支出が増大したことが大きな原因である。言うまでもないが、年金やメディケア(高齢者向けの医療保険)の総額は高齢者人口が増えていくにつれて増大するし、軍事支出も急激に削減するのはほぼ不可能である。にもかかわらず、増税が提案されることは、まずない。
米国で債務上限問題が発生するのは構造的な問題だということができ、財務省によれば、1960年以来、上限は78回見直されている。このような状況を考えて、債務上限の規定を撤廃するべきではないかとの提案もなされるようになっている。
だが、二大政党の対立が激化し、政治的分断が進展している近年の米国では、債務が上限近くになる度に二大政党間で論争がおこり、手続きが難航するようになった。米国では民主党が大きな政府、共和党が小さな政府の立場に立っていることを考えると、民主党が債務上限を上げるよう要請し、共和党が逆に支出削減を求めていると思うかもしれない。一般的な傾向としてはそうなのだが、実際はもう少し複雑で、大統領の所属政党が上限増大を求め、非政権党が支出削減を求めるというメカニズムも存在する。
例えば、2006年には、共和党のジョージ・W・ブッシュ政権が対アフガニスタン戦争、イラク戦争の戦費拡大もあって上限を上げるよう要請した。それに対し、当時連邦上院議員だった民主党のバラク・オバマは、無駄な支出の削減を伴わなければ上限引き上げを認めないと発言するなどしていた。
その5年後、オバマ政権機に連邦債務上限問題が発生した際には、共和党が引き上げの条件として支出削減を求め、オバマは政治的な理由での反対は好ましくないと発言していた。