2024年7月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年6月2日

 そもそも2020年10月の国民投票で80%近いチリ有権者は憲法改正に賛成し、2021年5月の制憲議会議員選挙では、左派が圧勝した。

 しかし、左派主導で採択された新憲法案は、議会のチェック機能を弱め、裁判官の政治任用を可能とし、先住民に適用される司法制度を設け、私有財産権を立法措置により収用でき、あらゆる分野で国営企業を設立でき、過剰な労働者保護や実現に疑問のある社会的権利を保障するなど過激な内容を含むもので、2022年9月の国民投票において大差で否決された経緯があった。

 従って、今回の制憲議会選挙の結果は、よりバランスの取れた構成になることが予想されていたが、これほどまでに右派が多数を占めることは予想されていなかった。このような事態を招いた背景には、左派の行き過ぎた憲法案に国民が警戒心を持ったことに加え、パンデミックやウクライナ戦争を契機とする経済的困難、ベネズエラ難民の流入、そして、特に国外からの麻薬組織の浸透などによる犯罪の増加現象などにボリッチ政権が効果的に対応できず、国民の不満が高まっていたことがあるとされる。

右派が勝利するも暗い今後の見通し

 新制憲議会において強硬な元大統領候補のカストの共和党が右派の中でも多数を占めたことにより、次の憲法案が国民の多数が期待する限度を超えて保守的なものとなる可能性もあろう。それが行き過ぎれば、今年12月に予定される国民投票で次の憲法案も否決されることにもなりかねず、予断を許さない。

 極右の共和党を含む右派が、ある程度左派や中間派とも妥協して、市場主義経済の原則や自由な民主主義の制度的保障を維持しつつも、国民や先住民の権利、経済的格差に対応する社会保障や教育支援、社会政策などにも配慮した内容とすることができるかが鍵となる。国民の多数が受け入れられるバランスの取れた西欧的な憲法が採択されれば、中長期的なチリの安定と成長を確保するチャンスともなる可能性もあり、そのような展開となることが期待される。

 内政面では、今回の選挙でボリッチが最大の敗者となった意味は大きい。既に支持率は20%台に落ちていたが、これは事実上の不信任ともいえるもので、任期を後3年残して、早くもレームダック(死に体)化することになりかねない。ボリッチが公約した税制改革などはいまだ実現しておらず、今後その実現のためには、内容を穏健化して議会での関係法案の成立を目指す必要があるが、右派野党の協力が得られるかが疑問である。これらは政治経験の乏しいボリッチには難しい課題とも言える。

 なお、今回の選挙結果は、いわゆるラテンアメリカにおけるピンクタイド、即ち左傾化の傾向が、政権が国民の期待に応えられないことにより支持を失い、その潮目が変わる象徴的現象の1つとして位置付けられる可能性もあろう。

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