全てを知る人物
起訴されたトランプ前大統領の裁判の行方に多大な影響を与える可能性が高い人物が2人いる。1人はトランプ氏の近侍ウォルト・ナウター氏(41)である。米メディアによると、グアムで生まれた元米海軍のナウター氏は、ホワイトハウスの食堂で働いたのち、執務室の近侍になった。その際、トランプ前大統領と接点ができたのかもしれない。
ナウター氏は司法妨害、政府文書の隠蔽や米連邦捜査局(FBI)に対する虚偽の発言など6件の罪で起訴された。トランプ前大統領の指示で機密文書が入った箱を移動しているところが、セキュリティのカメラに写っていたと言う。また、FBIはナウター氏の携帯を没収し、トランプ氏との通話履歴を取得しているとも言われている。
トランプ前大統領の機密文書保持について「全てを知る人物」と見られているナウター氏が、刑を減らし軽くするために、司法取引に応じて検察官に協力するのかが、今後の焦点になる。ただ、現時点(23年6月18日)で、同氏のトランプ前大統領に対する忠誠心が弱まっているという報道はない。
トランプ寄りの連邦地裁判事
もう1人が裁判地となるフロリダ州南部連邦地裁のアイリーン・キャノン判事(42)である。保守派のキャノン判事は、トランプ前大統領によって任命された。
裁判の経験が浅いキャノン判事は昨年8月、トランプ氏弁護団に対してFBIがトランプ氏の自宅マーラ・ア・ラーゴで没収した機密文書を綿密に調べる「特別管理人」の任命を認めた。その裏にはFBIの捜査を遅らせる意図があったとみてよい。
トランプ氏弁護団は、裁判を引き延ばす戦略に出ることは明らかだ。キャノン判事は、トランプ氏弁護団の意向を汲んで、裁判の日程を決定するかもしれない。
トランプ有利の陪審員か?
周知の通り、米国は陪審員制度を採用している。今回の裁判では、フロリダ州南部地区の市民から12人の陪審員が選任される。選任された12人全員が賛成しなければ、再審になる。トランプ支持者が1人でも陪審員になれば、トランプ前大統領が有罪になる可能性は下がるということだ。
率直に言えば、その公算は高い。というのは、フロリダ州は保守化が進み、もはや激戦州ではないと指摘されているからだ。
16年と20年の米大統領選挙において、トランプ前大統領はフロリダ州で、18年と22年の同州知事選では、デサンティス知事が勝利を収めた。有権者登録者数は、共和党が民主党を約47万人上回っている(23年4月30日時点)。加えて、キャノン判事が12人の陪審員選任のプロセスに影響を及ぼすのではないかという懸念があるからだ。