2024年12月5日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年6月29日

 他方で、規模の利益に加えて、潤沢な資金と官民一体となった輸出体制と世界の食料や資源を吸い込む巨大な市場を持つ中国にとり、貿易自由化はますます有利な条件をもたらすものであり、南米の最大の貿易パートナーとなるのも防ぎようがない。

 経済協力面では、適正な開発協力に関する援助哲学やルールを尊重する西側に対し、豊富な資金を有しルールに拘束されない中国が自由自在にやることも防ぎようがない。

 更に、民間投資についても、中国企業は、官民一体となって共産党の指示や利益に沿って行動するのに対し、西側企業は、個々の経営上の判断で行動するので、西側企業が投資環境を考慮して、より安全で利益を上げる国にシフトするのも当然だ。

 以上から、経済面では中国の方がラテンアメリカ諸国の期待に効果的に対応できるので、西側が競争に敗れるのは自然の成り行きとも云える。しかし、中国側には経済的影響力を政治利用する意図があり、西側諸国としても何らかの対抗策を講ずる必要があろう。

TPPやG7の活用を

 バイデン政権は、国内を説得して、ラテンアメリカとのFTAを拡大するべきであろう。この観点で、米国議会の中には、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)をラテンアメリカの民主主義国に拡大する構想があるが、積極的に検討すべきであろう。

 また、環太平洋経済連携協定(TPP)には、既に、メキシコ、チリ、ペルーが加盟し、コスタリカ、ウルグアイ、エクアドルが加盟申請しているが、これら諸国の加入を優先的に認め、更に同協定をラテンアメリカ諸国に拡大していくことも検討に値しよう。

 経済協力については、西側が経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)の場を通じて援助の効率化や環境配慮などの面で自主規制をしている一方、中国は独自のやり方で自由に協力を行っている以上、西側も、所得基準や、使途や事業主体を限定しないアンタイド原則への移行などについて規制緩和を図るべきだろう。

 もはや米国一国だけで、あるいは、欧州連合(EU)や日本が個別に中国に対抗するには限界がある。従って、例えば、主要7カ国(G7)としてラテンアメリカ経済活性化のための共同行動計画などを構築して、必要に応じ資金供給や民間投資の促進を図るなど、戦略的かつ実効的に対応できる体制を検討すべきだろう。少なくともこういった問題についてのG7の政策担当者間の協議の場があってしかるべきであろう。

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