サンパウロの政治学者スチュンケルが、米国外交専門メディア「フォーリン・ポリシー」ウェブサイトに5月18日付で掲載された論説‘How to Understand Brazil’s Ukraine Policy’において、ブラジルのルーラ大統領のウクライナ問題についての立場を理解する上で、4つの要素が重要であると論じている。要旨は次の通り。
ルーラが昨年10月の選挙に僅差で勝利し、1月に大統領に就任したことは世界の多数の国を安心させたが、ウクライナ戦争に対するルーラの一連の発言は、西側諸国の政府を苛立たせている。
ルーラは4月上旬、ウクライナは和平交渉のためにクリミア半島の割譲を検討すべきで、「ゼレンスキーはすべてを望むことはできない」と述べ、中国訪問時には米国が戦争を長引かせたと発言した。ルーラは、キーウとモスクワがこの紛争に等しく責任を負っているとも主張した。
欧米諸国はルーラのレトリックを強く批判してきた。ルーラのウクライナで仲介役を果たそうという野心は、欧米が歓迎しウクライナがブラジルを公平だと認めない限り成功しそうにない。それでも、欧米指導者たちは、ブラジルの考え方の根源にあるものを理解したほうが良い。ウクライナ問題で南半球を中心とする新興・途上国「グローバルサウス」が欧米との協調に消極的なのは、南北関係におけるより広範な力学を示すもので、世界の将来を左右する可能性がある。
ウクライナに対するブラジル政府の姿勢と、交渉により戦争終結を目指すルーラの熱意には、4つの重要な要因がある。
第1点:ロシアは常にブラジル外交政策において、伝統的に重視されてきた。その背景には、ラテンアメリカを自らの勢力圏と扱う米国に対する対抗するという面もあった。
第2点:欧米主導の国際秩序に対する不信感。特に、イラク戦争やリビアへの北大西洋条約機構(NATO)の介入が欧米の論理により正当化され、世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの重要国際機関が欧米によって牛耳られていることに対する不満がある。ウクライナ支援のための欧米主導の同盟についても同様の不信感や不満がある。
第3点:ブラジルは、多極化した世界秩序の構築に積極的に参加することで戦略的な自律を維持できると考えている。その観点から、ロシアを1つの極と位置付け、欧米のウクライナ支援にはあえて参加しない。
第4点:経済的および政治的混乱で終止符を打たれた2012年以前のブラジルの活発な外交政策に復帰し、グローバルな貢献を行うとのルーラの信念がある。