2024年12月6日(金)

プーチンのロシア

2023年6月27日

 では、なぜ民主主義はイヤなのか? 国民大衆の意見に従って国を動かす? トンデモナイ。民主主義は帝国ロシアの敵だ。

 強力な専制政治の下でこの国を統治し、民主主義の進行を喰いとめてこそ、自分はロシアの歴史的な指導者になれる、ロシアは偉大な大国であり続ける。一言でいえばロシアを栄えある帝国主義に引き戻す。そうしなければ欧米民主主義を見返せない。こういう思考だったようだ。

 ちなみにバーンズ長官によれば、このウクライナ侵攻の決定は大統領一人で決め、ほんの数人の側近が唯々諾々と支持した由である。もちろん、帝国を目指すロシアはスタッフが甲論乙駁する文化ではない。

「帝国志向は国を破滅に導く」

 周知の通り、プーチン大統領はソ連崩壊を「20世紀最大の地政学上の悲劇」と形容していた。この有名な発言は大統領自身がソ連式の帝国の復活を心中深く期していたことを示唆している。

 しかし、この帝国ロシアへの回帰はロシア自身の壊滅に繋がるという警告が既に存在していた。共産主義崩壊後のロシア初の首相エゴール・ガイダル氏は07年に『帝国の崩壊:現代ロシアへの教訓(Collapse of an Empire: Lessons for Modern Russia)』という本を出版し、その中で、「プーチン大統領のポスト帝国症候群」はロシアを破滅に導くと警告していた。

 「ロシアを再び帝国にしようとすることは幻想にすぎない。必ず失敗し、ロシアの存在そのものを危険にさらす」というのがガイダル氏の主張であった。その頃からガイダル氏はプーチン大統領の野心を見抜いていたのだ。英国のロシア通の外交官ジョン・ドブソン氏がガーディアン紙に書いている(”How Putin’s Russia will collapse”John Dobson,January 14, 2023)。

 実際のところウクライナ侵攻後のロシアは究極的な困難に逢着している。その限りでガイダル氏の予言は当たっていた。

 とにかく、ロシアは万事何事も上手く行かない国だ。帝国の復活は成功しなかった。

 経済的には化石燃料という単一商品の輸出に依存し、国際競争力のある付加価値生産システムは皆無。計画的な人材育成も無い。ロシアを自律的成長軌道に乗せる国家戦略など存在しない。

 そういう八方塞がりの経済を大統領と少数のオリガルヒが好きなようにいじくり回し、大規模に搾取してきた。プーチン大統領は帝国の復活にあれほど執着していた割には作戦が杜撰だった。

 ここでは詳しく論じないが、連邦を分裂させる地方の不穏な動きにも警戒しなければならない。ロシアを再び光輝ある帝国にすること自体、次第に幻想と化している。帝国を志向したら破滅に至る。ガイダル氏の予言は次第に真実味を増している。

 プーチン大統領は西側諸国から受けている経済制裁によってロシア経済が崩壊するといったシナリオは「現実化しない」と自信を示している。しかし、世界中の専門家が詳しく解説している通り、ロシア経済が異常な困難に直面していることは確かだ。それに多くの側面でロシア経済は中国経済に従属し、その度合いを強めている。

 追い打ちをかけるように、最近、イエール大学の研究団が「ロシアの経済統計はプーチンの空想による純粋な作り話であり、その経済は実際には崩壊している」と論じ始めた(”Russia's economic stats are 'pure invention from Putin's imagination,' and its economy is actually imploding, Yale researchers say”Jennifer Sor,Apr 13, 2023)。ロシアの経済指標は「プーチンの空想だ」という断定はもとより刮目に値するが、あの国ではあり得ることだ。


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