ロシア再生への二つの条件
ここへ来て、英国の高級紙テレグラフ紙はロシアの再生は、①政治体制を変更できるか? ②中国依存から脱却出来るか? の2点に懸っていると論じた(”Russia’s transformation into a wholly-owned subsidiary of China is now Complete”)。それが出来なければロシアは、貧しく腐敗した国家であり続け、悲惨な運命をたどる。20年前に共産主義が崩壊した時、国民は「希望」を持ったが、今日の現実は全く違ってしまった、と論じた。正鵠を射た分析だ。
実際のところ、ロシアは別の展望について議論をするべき時期に来ている。著名なロシア観察者であるヤヌシュ・ブガージスキー(Janusz Bugajski)氏は近著「失敗国家ロシアの破綻(Failed State: A Guide to Russia’s Rupture)」でロシアの行く末を論じている。
およそロシアという国は失敗国家であり、ナショナルアイデンティティ―が不明瞭で、国民国家になり切れなかった。機能する帝国でもなかった。数多の失敗や欠陥のせいで国は解決能力を欠き、万事極端な過激化に走った。国家のプロパガンダは不信を生むだけで、危機満載だ。あらゆる対立項目ごとに全く動きが取れなくなっている。そして、ロシア延命の可能性は連邦民主制(Federal Democracy)で行くしかないとしている。
ロシアの民主化へ西側は手を差し伸べる時
今回のワグネルの反乱が示すように、ロシアでは事態の急変はあり得る。観察し、分析しているうちに事態が動く。緩慢なプロセスが決定的な時点で急変するのだ。
英国のガーディアン紙はかねてから、欧州連合(EU)は今からポスト・プーチンに備え、ロシアをEU単一市場への統合を視野に入れて動くべきだと論じている(”The EU should start planning now for Russia after Putin” Alexander Clarkson and Kirill Shamiev,16 May 2023)。プーチン氏の代理人がロシアを支配することを想定していないのは明らかだ。
私見では今回の事件を契機にロシアの政治体制に変化が生まれる可能性がある。西側世界は、今度こそロシアが「貧しく腐敗した国家で、悲惨な運命をたどる」のではなく、民主的な国際社会の一員として持続成長を手にするように賢明な対応を取るべきだ。
状況が許す限り、西側社会はロシアとあらゆる共同作業を強化するべきだ。欧米では既に有力な論者が民主化したロシアと共同体意識で新時代を切り開くべきだと主張している(”What Could Come Next? Assessing the Putin Regime's Stability and Western Policy Options” January 20, 2023, Max Bergman 戦略国際問題研究所(CSIS)ロシアユーラシア部長)。
民主化したロシアが繁栄して行くことがEUの基本的利益だと強調しているのだ(”Wilfred Martens Centre for European Studies, July 2022”)。ロシアの隣国である日本も当然同様の考え方でその列に加わるべきだ。
ロシアを孤立させることは中国への依存度を高め、中国に搾取されるだけだ。その上ユーラシア全体を専制中国が覇を唱えることになる。このような地勢学上の大変動を何としても防止するべきだ。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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