彼はAIIBを辞任後、出国するよう忠告されたと述べており、上記のツイートは東京に到着後に投稿されたものと見られる。在カナダ中国大使館は、ピカードの言い分は「真っ赤な嘘」だとの声明を出した。AIIBは彼の告発は根拠がないとしつつも、内部的な調査を行うとしている。
ピカードの辞任を受けて、6月14日、カナダのフリーランド副首相(兼財務相)はカナダ政府がAIIBにおける活動を即刻停止すること、そして提起された告発とAIIBに対するカナダの関与について財務省に即刻検討を始めるよう指示したことを表明した。同副首相は、この検討完了後にあり得るいかなる結果も排除しないと付言したが、カナダがAIIBから脱退することを視野に入れているとの印象である。
ピカードは身の危険を感じて急ぎ中国を出たという意味のことも言っているが、もし、そういう危険が現にあったならば、迅速な出国は賢明な判断だったと思われる。2018年12月にカナダがバンクーバーで華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)を逮捕したことに対する報復として、中国はカナダ人2人を人質に取ったことがあり、中国には何をするか分からないところがある。
しかも、このところ、両国の関係は緊張の度を高めている。5月にはウイグル族迫害の問題で中国批判を主導する保守党議員マイケル・チョン(父親が中国からの移民)を脅迫したとの理由で、カナダは中国のトロント総領事館の館員を追放したが、これに対抗して中国はカナダの上海総領事館の館員を追放した。
カナダが脱退すれば欧州でも関係見直しの機運に
上記の論説は、そもそもAIIBは真正な多国間の銀行なのか、それとも「中国の特色を持った」多国間の銀行なのかと問うている。AIIBが「中国の特色を持った」金融機関であることに間違いはない。最近の両国関係に照らして、そのような性格のAIIBに関与し続けることにカナダは疑問を有しているのではないかと想像され、ピカードの一件を奇貨として、AIIBからの脱退につなげる意図かとも思われる。
2015年、英国がまずAIIBへの参加を決定し(当時のキャメロン政権は英中関係の「黄金時代」を演出)、経済的利益の欲しさからドイツ、フランス、イタリアが雪崩を打つように追従した。カナダも遅れて続いた。しかし、中国を見る目は大きく変わった。カナダがAIIBから脱退することになれば、欧州諸国がAIIBとの関係を見直す機運を醸成することになるかも知れない。