先頃、カナダ人の職員がアジアインフラ投資銀行(AIIB)は中国共産党によって支配されていると批判して辞任した。元アジア開発銀行(ADB)中国部長・東アジア局長ロバート・ウィトルが、この件との関連で、AIIBが真正な多国間の金融機関なのかを問う論説‘Does China wield excessive influence in the Asian Infrastructure Investment Bank?’を、豪州のシンクタンク・ローウィ研究所のウェブサイトに投稿している。要旨は次の通り。
このところ、AIIBは中国共産党により影響され支配すらされているとする批判が出ている。6月14日、AIIBの広報担当ロバート・ピカード(カナダ人)はAIIBが「共産党員によって支配され想像可能な最も有害な文化の一つを有している」と主張して辞任した。AIIBはこの告発には根拠がなく失望したと述べた。ピカードは中国を出国したが、自身の身の安全についての懸念に言及した。これを受けて、カナダ政府はAIIBとの協力を凍結し、調査を始めると表明した。
AIIBは2014年に交渉が開始され、2015年に北京を所在地として設立された。当初の加盟国は47であったが、その後106に増えた。中国が投票権の26.6%を有し、75%の多数を要する主要な決定については拒否権を握っている。2015年に中国の金立群が初代の総裁に選出されたが、2020年に再選されている。
AIIBの設立の過程で、その組織とガバナンスを含む多数の問題が交渉されたが、理事会によるAIIBの監督も問題の一つであった。世界銀行やADBをはじめすべての主要な開発銀行は、加盟国を代表する理事で構成される常駐の理事会を有する。理事会は融資を承認し、主要な戦略と政策を議論し、1週間に数度、会合することが出来る。
常駐の理事会はフルタイムで監督業務に焦点を当てるが、銀行の内部にその物理的プレゼンスを有することによって、公式・非公式に銀行の主要なスタッフと頻繁に接触する機会を持つことになる。そのことによって監督し問題を早期に摘み取ることが出来る。
この確立された慣行を捨てて、中国側は、常駐の理事会のコストおよび効率的な運営上の考慮を理由に、非常駐の理事会とすることを強く推進した。当時は、西側政府は交渉に参加しなかったため、ほとんど抵抗はなかった。
AIIBが北京に所在し、中国人の総裁を戴き、中国が主要な決定に拒否権を有するという事実は、そもそもAIIBは真正な多国間の銀行なのか、それとも「中国の特色を持った」多国間の銀行なのかという問題を提起する。
習近平がすべての分野で共産党の役割を強化することにプライオリティを付していることに鑑みれば、AIIB内における共産党の影響力についての懸念はすぐには解消しないであろう。AIIBがしっかりした監督の仕組みを有することを確認し、やがては、総裁を加盟国の間の持ち回りとすることが好ましい出発点となろう。後者は他の多国間の機関にとっても歓迎すべき先例となろう。
* * *
6月14日、ロバート・ピカード(AIIBの広報担当者)はツイッターに「愛国的なカナダ人として、これが自分にとって唯一の道であった。銀行は共産党員によって支配され想像可能な最も有害な文化の一つを有している。AIIBの加盟国であることがカナダの利益にかなうとは思わない」と記し、「自分はKGB(旧ソ連の国家保安委員会)、ゲシュタポ(ナチスドイツの秘密警察)あるいはシュタージ(旧東ドイツの秘密警察)のような共産党のろくでなしが銀行の枢要な地位を占めている状況をこの目で見た」とも記している。