2024年5月21日(火)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年7月3日

 この点について、6月8日の判決で主文を執筆したロバーツ首席判事は、アラバマ州の選挙区割りは黒人の有権者の政治力を弱めようとする意図に基づいている可能性が高く、人種的なゲリマンダリングを禁じた投票権法に違反している可能性が高いと宣言した。この判例は、多くの人を驚かせた。なぜならば、ロバーツは投票権に関しては一貫して保守的な判断をしてきた人物であるし、現在の連邦最高裁判所は近年の米国の歴史の中で最も保守的だと評されていたからである。

 この判断については、選挙区割りの妥当性を手続き面で評価するのではなく、選挙結果から逆算して評価していて不適切ではないかとの批判もある。さらには、公民権法が全ての個人に対して差別的な扱いがなされることがないよう定めたものなのに対して、本判決は人種に基づく考慮を重視して人種集団の権利を実質的に認定しているのではないかとの疑問も呈されている。このような批判については、慎重に検討する必要があるだろう。

 それはさておき、今回の判決はルイジアナ、サウスカロライナ、ジョージア、テキサスなどの選挙区割りをめぐる判断に影響を及ぼす可能性がある。今日では連邦議会下院はわずか10議席差で共和党が多数を握っている状態なので、仮に数議席がひっくり返ることになれば、選挙の勝敗が変わる可能性がある。

 もっとも、これらの州で来年の選挙までに選挙区割りを変更しなければならなくなるかどうかは、それぞれの州における訴訟の進展によって変わってくる。とはいえ、今回の判決は来年の連邦議会選挙の二大政党の勝敗を大きく左右する可能性を秘めているのである。

州議会は無制約に区割りを行うことができるか?―Moore v. Harper判決

 連邦最高裁判所は6月27日に、ノースカロライナ州で共和党が多数を占める州議会が定めた連邦下院の選挙区割りについて、民主党を不当に不利な立場に置くものであって州憲法に違反するとした州の最高裁判所の無効判決を支持する判決を出した。合衆国憲法には「上院議員および下院議員の選挙を行う日時、場所、方法は、各々の州においてその立法部が定める」とされているが、共和党はその規定を文字通りに解釈し、連邦の選挙について決定する権限は州議会が独占していて、州裁判所が介入することはできないという「独立州議会理論」を掲げて州最高裁判所の判断を却下するよう求めていた。

 この独立州議会理論は共和党の政治家と支持者の一部で広まっていた。だが、ロバーツ主席判事は、合衆国憲法の規定は、州の司法機関による審査から州議会を免除するものではないとして、州の裁判所が州議会による党派的な選挙区割りの妥当性について判断することを認めたのである。

 先ほど指摘したように、2018年の判例で、選挙区割りの結果として特定の党派に有利な結果が生み出されたとしても、連邦最高裁判所はそれが党派的な意図に基づくか否かを判断する立場にはないとしていた。それが独立州議会理論の根拠の一つともされてきたが、今回の判決は、州議会が行う区割りの妥当性を州の裁判所が判断することができるとして、州議会の恣意的な決定に一定の歯止めをかけたのである。

 もっとも、この判決が持つ意味を評価するのは、実は難しい。州の裁判所で確定した判決に不満を持つ人々は連邦最高裁判所に上訴することが合衆国憲法上認められているが、その際に連邦最高裁判所がどのような行動をとることができるのか(18年の判例とどのような関係に立つのか)について明らかにしていないからである。


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