タイは6月15日、ワシントンのナショナル・プレス・クラブでサプライチェーンの強化や伝統的貿易合意などにつき講演した。しかし報道はあまりない。USTRのウェブサイトは、この講演は4月のサリバン講演と一体を成すものだとわざわざ強調している。
講演では今までの貿易経済政策をことごとく攻撃している。これまでの自由貿易政策は、「サプライチェーンの多様化、強靭化を図らねばならない歴史上の今の時点では意味を成さない」とまで言う。中国が問題だと言い、ロシアが問題と言い、大企業が問題だという。ファルーハーが指摘するように、権力を持つ存在が全て攻撃されている。そして労働が大事だという。正に民主党左派や労働組合の論理である。
サリバンやタイの議論は、混乱している。あれも問題、これも問題と不満を述べるばかりに終始している。もう少し冷静に、動態的に、前向きに問題解決を考えることはできないのか。本当の問題は、中国であり、米国内経済であることを正直に認めるべきではないか。
自由貿易やグローバリゼーションを大雑把に攻撃するからおかしな議論になる。大目的を定めた上で、交渉や国内構造転換を通じて解決していくべきではないか。タイは国内の現場訪問に時間を使っていることを自慢するが、それだけでは問題は解決しない。環太平洋経済連携協定(TPP)の価値も見えなくなるし、現実的な政策も出て来ない。
選挙モードに入るバイデン政権
なぜ米国は今こんなことになっているのか。2024年の大統領選挙が近づき、段々政治モードに入っていることが大きいだろう。残念ながら、バイデン政権は貿易政策なくして発足し、貿易なくして終わるのだろう。
サリバンやタイの議論には、経済学者や貿易専門家の足跡が全く見えない(レーガン・サッチャー時代のパラダイム・シフトにはサプライサイド理論の経済学者らがいた)。そのようなインフルエンサーも参加する競争力会議などを設け、国民的議論を動かしていくべきではなかったかと、残念に思われる。