英フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのファルーハーが、6月18日付けの論説‘America is telling a very different story about trade’で、同15日の米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表の講演を取り上げ、論評している。ファルーハーは、米国は異質の貿易論を展開しており、その詳細は未だ分からないがパラダイム・シフトが進んでいる、と指摘する。主要点は次の通り。
パラダイム・シフトが先回起きたのは、レーガン・サッチャー時代だった。レーガンは、私企業の力と「アニマル・スピリット(野心的意欲)」を解き放つと主張した、新たなポスト・ケインズ時代の舞台を作り上げた。
同じことがバイデン政権で進んでいる。トリクルダウン経済政策を終了したバイデンの議会演説、海外でのビルド・バック・ベター(より良き再建)に関する4月のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)講演、「米国をUSTRに取り戻す」と宣明したタイの講演などが、新時代到来の兆候を示す。
これらの演説は、米の政治経済の大変化になる。それには時間がかかる。貿易政策の目標につき、タイの講演から三つの結論を引き出すことができる。
第一に、タイは、中国やロシア、多国籍企業を問わず、権力の集積を「チョークポイント(隘路)」として攻撃している。
第二に、バイデン政権は、貿易は米の中間層(労働者)にとり良いものであることが必要だと信じ込み、伝統的な自由貿易合意を批判し、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」にあるような労働者の保護強化が必要だとする。その意味は、伝統的な自由貿易合意からの離脱である。
第三に、悪魔は詳細に宿る。タイの講演には詳細が不足している。結果が明確になるまでには数年かかる。
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ファルーハーは鋭い批判はせず一見肯定的な印象を与えるが、論説をよく読んでみると疑念の要素を含み「御手並み拝見」と見ているようだ。