今回の記事では、行動経済学の「プロスペクト理論」について解説しています。常に合理的な判断をしているつもりでも、置かれた状況や条件によって、人間は都合良く事実認識をゆがめてしまうといいます。
*本記事は帝京大学経済学部教授の宿輪純一氏の著書『はじめまして、経済学 おカネの物差しを持った哲学』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。
伸び悩む日本の「可処分所得」
家計(個人消費)*1とは、企業や政府と並んで国民経済を構成する経済主体です。*2家庭生活を営むための収入、支出の運営そのものを含みます。
たとえば、給料を受け取って生活している会社員の場合、額面から健康保険・厚生年金などの公的な保険料、所得税や住民税といった税金などを差し引いて、実際に使える金額を「可処分所得」(Disposable Income)といいます。要は、自分で自由に使える「手取り収入」のことです。
可処分所得=収入―(税金+社会保険料)
=貯蓄+消費支出
私たちは可処分所得の中から貯蓄や生活費(消費)におカネを回しています。現在の日本では、なかなか収入が上がらないにもかかわらず、主として少子高齢化のために社会保険料が膨らんでおり、全体として可処分所得は伸び悩んでいる傾向があります。
*1 「家庭経済」ともいいます。
*2 日本では個人消費がGDPの約6割を占めています。アメリカの場合は国民性のせいか、個人消費の割合がさらに大きく、約7割に達しています。
コロナ禍で上昇した「エンゲル係数」
家計の消費支出に占める「飲食費」の割合のことを「エンゲル係数」(Engel’s Coefficient)といいます。ドイツの社会統計学者エルンスト・エンゲル(Ernst Engel)の名にちなんでこの名称が用いられました。
エンゲル係数(%)= 食費÷消費支出×100
一般的に、エンゲル係数は所得が上昇するにつれて低下する傾向にあります。逆に言えば、エンゲル係数が高いほど生活水準が低いということを表します。
エンゲル係数が高い(=個人消費における飲食費の割合が高い)ということは、娯楽や嗜好品におカネを回す余裕がなく、生きるのにカツカツである状態だと推測されるからです。
なお、終戦直後の日本では年平均でエンゲル係数が60%以上もありましたが、高度成長期を経て生活水準が向上したことで、エンゲル係数は急速に低下し、今では大体20%~30%にとどまっています。