プロスペクト理論とは、置かれた状況や条件によって、人間は都合良く事実認識をゆがめてしまうということを明らかにした理論です。
人間には、持って生まれた性質がいくつかあります。たとえば、モノを得た時と失った時では、失った時の方が得た時の約3倍の心理的な影響(ショック)を受けると推定されています*5。そのため、質問1と質問2の事例では、「損をしたくない」という心理が強く働き、合理的な意思決定がなされず結果に偏りが生じてしまいました。
このように、私たちが何かを決定するとき、そこには客観的事実(確率、勝率…)のみではなく、主観性(感情、希望…)が影響します。いくら正しい選択をしようと思っていても、常に合理的な判断が下されるとは限らないのです。
*5 恋愛が成就するのと失恋とでは、失恋した時の方が心理的影響は大きいものです。歌謡曲に失恋をテーマにした曲が多いのもその一例だと考えられます。
非合理なギャンブルにハマる理由
このプロスペクト理論は、人が投機やギャンブル(賭博)にハマる理由を解明する理論としてもよく知られています。
たとえば日本で認められているギャンブルのひとつにパチンコ*6があります。日本に訪れた外国人は、パチンコ店の多さにかなりびっくりするそうです。駅前の一等地に、カジノがあるような感覚でしょうか。
日本人にとってはかなり身近な存在であるパチンコですが、先ほども述べたように、人間は儲けたときより損をしたときの方が心理的ショックを受けるという性質を持っています。そのため、負けが重なっていくと、損失を取り戻そう、次は勝てるという心理(主観性)が強く働き、知らず知らずのうちにギャンブルにのめり込んでいってしまうのです。
これは宝くじ*7でも同様です。日本では、頻繁にテレビCMも放送されており、パチンコよりも身近に感じる存在かもしれません。しかし、基本的には宝くじもギャンブルの一種です。実はこれほど公的に宝くじが販売されている国も珍しいのです。
実際、宝くじの期待値はかなり低く設定されており、高額当せんにいたっては天文学的な確率です。それにも関わらず、あまりに高額な当せん金を目の前にすると「もし当せんしたら…」という過度な期待(主観性)を抱いてしまいます。まさに「プロスペクトの罠」にはまるというわけです。
どちらのギャンブルも共通して、「損はしたくない」「次は当たるだろう」という主観性が事実認識をゆがめます。このように、人間の心理をうまく利用しているギャンブルは、やればやるほどのめり込んでいってしまうという危険性を持っているのです。
*6 「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)」によって風俗営業の一業種として定められています。「三店方式」(パチンコ店、景品交換所、景品問屋)という営業形態をとっており、事実上、現金に換金することができます。
*7 「当せん金付証票法」という法律で規定されています。総務大臣の許可のもと、定められた全国都道府県と20指定都市のみ発行が可能です。