4月27日、米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はワシントンのブルッキングス研究所で「米国の経済的リーダーシップ再生のために」と題する演説を行った。主要点の一部を挙げれば、次の通り。
(1)戦後の国際経済秩序につき過去数十年亀裂が生じ、多くの労働者や住民が取り残された。金融危機は中間層を打撃した。サプライチェーンの脆弱性が露呈、ロシアはウクライナを侵略した。
(2)バイデン政権は発足に当たり4つの課題に直面した。第一は、米国の産業の空洞化。市場効率という名の下に戦略物資のサプライチェーンが海外に移転した。貿易の自由化は米国の輸出を増大させ、雇用や能力を輸出することにはならないと言われたが、それは守られなかった。全ての成長が良い成長だと考えられた。そのため金融など特定分野が優遇され、半導体などの不可欠な分野は衰退した。金融危機とパンデミックは今までの経済政策の前提の限界を露呈した。第二は、地政学と安全保障の競争。過去30年の国際経済政策は、経済統合を通じて国は責任ある、開放された国になるとの前提に立っていた。中国は、そのような国にはならなかった。第三は気候変動とエネルギーの転換。第四は、格差の問題とそれが民主主義に与えたダメージ。
(3)90年代のような関税撤廃では今日の問題(供給網など)を解決することはできない。自由貿易協定(FTA)では対処できない。
(4)バイデン政権は中間層や労働者に不利益を与える法人税の撤廃につき関係国に働きかけている。
(5)重要技術は、「狭い範囲の高い壁の中」で守る。対中関係は、デリスキングであり、デカップリングするのではない。
(6)今必要なのは、われわれの賃金労働者、産業、気候、安全保障、世界の最貧で最も脆弱な国にとり良い国際経済システムだ。
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サリバン演説の全文は、ホワイトハウスのウェブサイトで読むことができる(‘Remarks by National Security Advisor Jake Sullivan on Renewing American Economic Leadership at the Brookings Institution’)。
この演説には暗澹たる気持ちにさせられる。書生のごとき観念的な世界観に驚く。戦後70年の国際社会の発展・経験の現実をあまりにも無視している。この演説に対しては、「冷戦終了後の30年両党の大統領の追及した貿易政策を全面的に否定するに等しい演説」との批判もある。