4月14日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙米国版編集長のジリアン・テットが、米国は貿易の友好国グループを拡大すべきだ、サプライチェーンを信頼しうる国に限定することには危険が伴うと述べている。
約1年前、米財務長官のイエレンは、「フレンド・ショアリング(注:生産網の友好国間構築)」という新語を提唱した。それは、米中緊張が増大する世界で、企業はサプライチェーンを信頼しうる友好国に移すべきだというものだ。
しかし「フレンド・ショアリング」は、二つの意味で大きな懸念を引き起こしている。第一に、投資の流れが政治的なブロックに沿って流れると、年2%ほど世界の経済成長率を押し下げ、また、「政治的緊張の増大は、資本フローの再分布を引き起こす」ので、金融不安を引き起こす可能性がある。
第二の問題はより見え難いものである。長期投資計画を作る時、誰が「友人」なのか、不確実性がある。米国のインフレ削減法(IRA)を例に取れば、欧州はイエレンの仲間に入っていると想定していた。そのため欧州企業が環境補助金から除外された時、欧州は衝撃を受けた。
国際通貨基金(IMF)は、改めて全ての者と仲良くし、グローバリゼーションを堅持すべきだと言う。それはそうだが、今それは難しい。企業に残された唯一の実際的な選択肢は、生産拠点を複数の異なる友好国に置くこと及び/またはそれを本国に返すことをして、地政学上のリスクをヘッジすることだ。しかしヘッジングには、効率低下と価格高というコストがかかる。
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IMF専務理事のゲオルギエバは4月13日、世銀との合同総会で記者会見し、「各国は『第2の冷戦』を避けるべきだ」、「(経済が)経済学的な側面だけでなく、地政学的な信頼性を頼りに動いている」と述べ、国際社会の分断が自由貿易を阻むコストが世界経済の0.2〜7%に達するとの分析を例示した。
地政学的分断の経済的悪影響を指摘するIMFの見解は重要だ。他方、米中対立やウクライナがあっても、世界経済の大きな部分はグローバリゼーションで今でもとうとうと流れている。その委縮を最小限にせねばならない。
しかし、今の難しい時代を乗り切る方法は、テットが言うようにヘッジングのようだ。それは従来から資本主義の下で企業が常にやってきたことでもあり、そう驚くことでもないのかもしれない。昔はカントリー・リスクと言った。しかしヘッジングには「効率低下と価格高というコストがかかる」。そう考えると、フレンド・ショアリングの考えに過度に反応すべきでないのかもしれない。