2024年7月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年7月26日

 ロシアはNATOの東方拡大を嫌ってきたが、ウクライナ侵攻によって、スウェーデンとフィンランドがロシアの脅威を痛感し、NATOの北方拡大の機運を作り出し、それが実現の運びに至ったことは、ロシアにとっては痛恨事と言えよう。プーチンの大失策の結果である。 

 冷戦期の北欧の安全保障体制は、従来、ノルディックバランスと呼ばれ、ノルウェーはNATO加盟、スウェーデンは中立国、フィンランドはフィンランド化と言われたように中立ながらロシア(ソ連)寄りという形で推移してきたが、そのバランスが根本的に変わることになった。

 歴史的と称してよい変化である。

反対を取り下げたトルコの狙い

 スウェーデンの加盟については、トルコのエルドアンがトルコと敵対する非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)関係者にスウェーデンが安全な居場所を提供しているということで、反対をしてきたが、スウェーデンが憲法の改正、反テロ法の制定などでトルコの要求を満たす対応をとったこともあり、また先のトルコの大統領選挙で当選したことに鑑み、反対を取り下げる潮時であると考えたと思われる。

 ただ、エルドアンはタフな交渉者であり、最後にはトルコのEU加盟問題とスウェーデンのNATO加盟問題を結び付けようとしたようである。しかし、一つはEUの問題で、いま一つはNATOの問題であり、この二つを強引に結びつけるのは筋が通らない話である。スウェーデンの首相がトルコのEU加盟については好意的に対処すると述べたことでエルドアンも矛を収めざるを得なかったと推測される。EU委員会は、二つの問題は別問題としている。

 エルドアンはNATOで自身とトルコの影響力を今回の件で高めたと言うが、いろいろな問題を絡めるエルドアンの姿勢をNATOの首脳が評価したということはないのではないか。エルドアンは自己の都合を優先してごり押しをする問題児と考えられたのではないか。

 スウェーデンとフィンランドのNATO加盟の軍事的意味については、この解説記事にも言及があるが、北欧の安定にとってのその大きな意味は今後さらに明らかになると思われる。

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