2024年12月8日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年3月15日

Nikita John Creagh/Gettyimages

 2023年2月24日付の米ワシントン・ポスト紙(WP)に、元スウェーデン首相で同紙客員コラムニストのカール・ビルトが、「ウクライナにおける平和の確立は欧州連合(EU)加盟国になることを必要とする」との論説を書いている。

 ウクライナ戦争に勝つことが今の優先事項であるが、その後、平和を勝ち取る仕事がある。それは複雑で、いろいろなことが必要になる。(その中で)ただ一つのことは確かである。ウクライナを西側と欧州・大西洋協力構造にとどめおくことが不可欠だという事である。平和の確立はEUの加盟国たるウクライナではじめて可能になる。

 ただ、EU加盟国になることは難しい。数十年にわたる欧州統合で蓄積された規則への痛みを伴う調整に何年も要する。また、独立し能力のあるウクライナの司法には汚職との戦いが不可欠であり、それには時間がかかる。更に、経済的には最も貧しいが、面積で最大である国を加入させることはEUそのものを変質させる。EUの巨大な農業・構造補助金は急激な変化を強いられるし、騒動をもたらすだろう。

 EUの構造調整の要求も出るだろう。ウクライナに欧州議会の多くの議員数とEU理事会での相当な投票権を与えることになり、改革派は全会一致規則をなくすこと、委員会の規模縮小を要求しかねない。ウクライナの加入はEUの中心が東にシフトしているとの不満を強くする。

 しかし、ウクライナがEU加盟に動くときに直面する問題が相当なものであるにしても、得られる利益との比較ではそれは影が薄い。ウクライナの安定と安全保障は、欧州の平和と安全保障の前提条件である。またウクライナを取り込むことはEUに人材から食糧、再生エネルギーに至る巨大な資産を提供する。

 ウクライナのEU加入は時間と努力を必要とするが、それは平和のために絶対に必要である。EUがそのプロセスを今年中に始められない理由はない。

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 このビルトの論説は、ウクライナのEU加盟の実現を力強く支持するものであり、賛成できよう。今ウクライナは加盟候補国であるが、加盟に向けた交渉をできるだけ早く進めていくべきであろう。

 ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟よりもEU加盟の方がロシアの強権支配体制にとって脅威になると考える。ウクライナのNATO加盟は、ウクライナ領土の一部でも占領されていれば、NATO条約第5条によりウクライナ戦争はNATOとロシアとの全面対決になるので、ありえないが、ウクライナのEU加盟はありうる選択肢である。EU加盟までにはまだ時間がかかると思うが、それまでに連携協定などでEUとウクライナの関係強化もできる。


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