2024年11月22日(金)

都市vs地方 

2023年7月27日

路線価の意味

 土地の価格の調査には、路線価のほかに公示地価、固定資産税評価額など複数の指標が存在する。また政府が公表する調査結果としての地価の他に、実際に市場で取引される地価、すなわち実勢地価も存在する。

 このように、他にも地価の指標が存在するにも関わらず、あえて路線価が公表されている訳には、上にあげた国税庁の

相続税等の申告に当たり、土地等についてご自分で時価を把握することは必ずしも容易ではない

 という理由の他に、「相続」という特殊な事情が絡んでいる。

 もし国税庁の言う通り「相続財産に含まれる土地等の価額は、時価により評価する」ということであれば、既に公表されている実勢地価に近い「公示地価」を用いればいいことになる。しかし、相続は被相続人(死亡者)にとっても相続人(遺族)にとっても、意図せざる状況で突然発生するため、意図的な土地の取引によって価格づけられる実勢地価に近い公示地価での課税では、重すぎるという問題を軽減するためといえる。

 また、相続により財産を取得したとしても、売却益が直ちに発生するわけではないため、相続人にとっては納税資金(キャッシュ)に困るという事情も考慮しうるであろう。なお、土地を相続して納税資金がない場合でも、税務署長が認めれば、土地そのものを「物納」することが可能である。

 このため、実勢価格としての公示地価よりも路線価はやや控えめな評価額となっている。国税庁自身も「路線価は、毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に評価しています」としている。

 例えば、東京都の23年の路線価最高価格は東京都中央区銀座5丁目銀座中央通りの4272万円であった。しかし、同じ23年の公示地価の東京都の最高価格(商業地:東京都中央区銀座4丁目)は5380万円、また住所が近い東京都中央区銀座5丁目の公示地価は4600万円であり、いずれも路線価の方が低い金額であった。

路線価の功罪

 土地の価格の評価は「時価」を原則としつつも、別途に「路線価」という価格が提示され、やや控え目な評価額となっていることは、土地の相続という突然の事態に対する納税資金等の問題を軽減するために一定の役割を持っているといえる。しかし、実際は路線価の評価額よりも高い価値の土地を、路線価の基準で評価して相続税の課税がマイルドとなっていることは、同じ価値の相続財産であっても、納税額に差異が生じるということになる。

 たとえば、1億円の現金・預金は誰がどのように評価しても1億円の相続財産として評価される。しかし、同じ実勢価格1億円の土地であれば、80%の8000万円の評価となり、安い相続税で子どもに財産を残すことが可能となる。そこで、表2に21年相続税の課税財産の内訳を示した。

(出所)国税庁, 令和3年「国税庁統計年報」 写真を拡大

 表2を見ると、財産と家屋を合わせた不動産は7.5兆円と相続税の対象となる財産のうちで最も大きくなっていることが分かる。もし、同じ価額の資産であったとしても、相続税上の評価が有利であれば、資産家はその保有する財産の構成を、相続税上有利なものへと組み替えたいと思うであろう。


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