「オレンジ型」は時代の流れから生まれてきた
また、作中一番人気と言われる感動シーンが、チョッパーの初登場となるドラム島編のシーンだ(コミックス15 ~17巻参照)。
人間にも動物にもなれない、中途半端な存在として差別され続けたチョッパーが、自らの夢を追うことを許され、自由を勝ち得て、ビジョンを共有したメリー号に乗る仲間たちを得る。
ある種、制約となっていた恩師との関係からも解き放たれるシーンだからこそ、一層の深い感動を生むのだ。
基本的に、あらゆる場面でオレンジ型の構造がワンピースには散りばめられている。ともすると、魚人島や天竜人、という分かりやすく差別的な表現のエピソードに目が向くが、この「意識段階の差異や変遷」に目を向けてみると、どうしてこれだけあらゆる場面で感動が生まれるのかが読み解ける。
さて、実はこの「オレンジ型」の物語や主人公は、時代の流れから必然として生まれてきたものなのである。戦後ならではの「レッド型」ヒーローとしては、以前に取り上げた『北斗の拳』(武論尊、原哲夫、集英社)のケンシロウ以外に、『あしたのジョー』(高森朝雄、ちばてつや 、講談社)や『エースをねらえ』(山本鈴美香、集英社)などもみな、「努力して耐え忍び、気合と根性で成り上がり、力で相手を打ち負かす」という構造であった。
そこから数十年たち、20世紀後半となる。ウルトラマンやセーラームーンといったヒーロー・ヒロインたちが迎え入れられたが、これは、「平和(規律)を脅かす、異分子たちを排除する」という、非常にブルー型のリーダーたちだったのだ(異分子として、怪獣や異世界人といったモチーフが活用されていった)。
しかし、1990年代のバブル崩壊以降。
既存の規律が役立たなくなり、上に従っていればただ良い時代が終わりを迎えた。この結果として、他人や組織に合わせるのでなく、「自らの権利のもとに、自由に夢を追う」というオレンジ型の生き方が価値観として認められるようになり、それを体現するリーダーとして、『ワンピース』のような作品が生まれたのだ。
「海賊王に、俺はなる!」という主人公ルフィの名言が、まさに如実に表している(グランドラインを制覇する、という共通のビジョンのもと、組織の一員たちが結合していくのも同様である)。
昭和から平成への移り変わりを典型的に表しているといえよう。
インテグラル理論は、その説明の網羅性が特筆すべき点であるが、時代の違いだけでなく、国や地域ごとにも言及できる汎用性が魅力だ。
国家ごとの差異については、日本はまだまだブルーに意識重心のある官僚的な国家であり、米国は自由に重きを置く、オレンジ型の国家だ。だからこそここ数十年、起業家大国としてイノベーションを牽引し、経済成長を続ける結果へと繋がっている。見習うべき姿勢であろう。