2024年12月22日(日)

MANGAの道は世界に通ず

2023年2月18日

『スラムダンク』(井上雄彦、集英社)

 本質は古典に帰依している。それを感じさせてくれるのが、スポーツ漫画史上1位と呼び声高い『スラムダンク』(井上雄彦、集英社)だ。

 この連載でも『アオアシ』(小林有吾、上野直彦、小学館)など、スポーツ分野に影響を与えた作品を取り上げてきたが、『スラムダンク』に並ぶほどのインパクトがあった作品は、『キャプテン翼』(高橋陽一、集英社)ぐらいしか見当たらないのではないだろうか。

 しかしこの『スラムダンク』、連載開始当初には疑問の声が上がっていた。「バスケなんてマイナースポーツを扱っても人気にならない」。バスケットボールが一般普及した現代からは考えられないようなイメージであるが、それだけ本作品がブームになったことで、バスケの知名度と人気は吹き上がり、中学・高校でのバスケ部人気もうなぎ上りになったという経緯があるのだ。

 では、この秘訣はどこにあるのか? それは、本作品が「最強チームを作る」ことにフォーカスしており、その姿が圧倒的な臨場感を持って迫ってくるからに他ならない。

 本作は、「高校バスケ界ナンバーワン」だった山王高校との戦いを最後に連載が終了する。作中で最高の盛り上がりを見せた本試合が、印象に残っている読者も多いことだろう。

 多くの人気作品が、雑誌の発行部数の担保のために「引き伸ばし」の憂き目にあい、尻すぼみに人気を落として終了しがちな中、クライマックスの熱量のままに終了したスラムダンクの展開には目を見張るものがある。

 そういう意味でも伝説的な作品だが、同作からは「組織論」において多大なエッセンスを学べるということにここでは注目したい。

 実は、組織論の古典として、心理学者のブルース・W・タックマンが提唱した「タックマンモデル」というものがある。組織の春夏秋冬ともいえるもので、いずれの組織や集団も、高いパフォーマンスを発揮するには以下の段階を辿る必要があるというものだ。

 【フォーミング】皆さんが初めましての段階。新入生たちがクラスに入ったばかりの状態や、名刺交換をし終えたビジネスマンの集団、などと捉えれば良い。

 【ストーミング】組織内でいさかいが起こり、トラブルにまみれた状況。特に、和を見出す異分子的な存在によって引き起こされ、喧々諤々の雰囲気となる。

 【ノーミング、パフォーミング】ストーミングを乗り越え、組織に一体感が生まれた熱量の高い段階。みなが同じ方向を向き、統率の取れた動き方をする。

 【トランスフォーミング】目的を終え、解散する。新たなメンバーたちを迎え、また一からのフォーミングに向かって変遷していく。

 これら四段階が、春夏秋冬で表現される。要するに、組織が高いパフォーマンスを発揮するには、お互いが全力でぶつかり合う喧嘩状態=【ストーミング】を乗り越える必要があるのだ。

 それを遠慮して、お互いを気遣いすぎて行儀良くしているだけの状態だと、本物のパフォーマンスは発揮されない。【フォーミング】状態に留まり、この段階では全力の30%程度しか能力発揮されないといわれている。逆に、【ノーミング・パフォーミング】になると1000%、ひいいては1万%になるとすらされているのだ。

 『スラムダンク』においては「まさに」この姿が描かれている。

 暴力的な不良たちに自由を侵害されそうになり、戦って乗り越え、主人公である桜木花道も、自分が原因で負けてしまった試合という挫折を乗り越えていく。チームメイトたちは散々に、お互いに喧嘩しながらも、互いの特徴や個性を認めていくのだ。

 最終的に「絶対に勝てない」と思われた山王戦。圧倒的な実力差があったにも関わらず、あのような展開になったのは、まさにチームが普段の100倍の力を発揮する、パフォーミング状態に突入したからといえるのだ。

 この状態に入ると、全員がある種「ゾーン」に入っている状態となる。実際のNBAチームでも、1990年代のシカゴブルズがそうであった。アイコンタクトだけで、考えられないパスが通るということが連発するのだ。

 組織が覚醒しているとはこのことであり、高い目標があるならすべからくこの状態に突入することを目指すべきであろう。そのために必要なのは、メンバーそれぞれが「本気であること」だ。だからこそ喧嘩し、ぶつかり合うことで相互理解が進み、同調(シンクロ)し合いながら試合を進めることができる。

 なお、ハリウッド映画でよく見られる米軍の海兵隊(マリーン)などのイメージもこれである。お互いが主義主張をして、しょっちゅう喧嘩をしているシーンが目に浮かぶのではないだろうか。これは、常にストーミングを起こしていることで、必要な時(戦時)にいつでも集中してノーミング状態に入るためのリハーサルであるのだ。

 急成長するベンチャー企業でも、幹部陣が本気であるがゆえ「しょっちゅうぶつかり合っている」シーンが見て取れる。


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