2024年12月22日(日)

MANGAの道は世界に通ず

2023年9月23日

『ワンピース』

 人の意識は時代の変遷とともに成熟していく、という「インテグラル理論」の概説を本連載では何度か説いた。暴力と支配のレッド段階を表す『北斗の拳』(武論尊、原哲夫、集英社)、ルールと規律のブルー段階の『島耕作』(弘兼憲史、講談社)に続き、平成以降の現代型ヒーローの象徴として、今回は『ワンピース』(尾田栄一郎、集英社)を取り上げる。

 言わずもがなの歴代No. 1ヒット作品、現時点での累計発行部数は5億部を超える同作は、1997年に連載開始のご長寿作品に関わらず、昨年公開の映画『ONE PIECE FILM RED』で興行収入197億円を記録。

 国内映画の興行収入ランキング歴代8位となり、その勢いは未だ止まるところを知らない。なぜ本作がこれほどまでに人の心を打ち、語り継がれ続けているのだろうか? 実は同作は、ブルーの後段階となる「オレンジ」の意識段階を如実に描いており、それが1990〜2000年代の人々の心象風景にピッタリと重なったからだ。

「自由と差別」の物語

 一言でいうと『ワンピース』は、「自由と差別」の物語なのである。

 23巻における、アラバスタ編での旅立ちのシーンや、61巻のマリンフォードでの別れのシーンなど、ファン感類の人気シーンは枚挙に暇がないが、特段読者の思い入れが深いのはこの、「オレンジ構造」が含まれている場面である。

 人目を気にして、他人に迷惑をかけず、右に「倣え」をすることで身を守るブルー段階。ここからさらに意識が成熟すると、「他人軸でなく自分軸」。組織や常識に合わせるのでなく、「自らの頭で考え、自分なりの価値観で動くようになる」のだ。これがオレンジ段階であり、本質的なリーダーとしてのあり方でもある。

 必然、この段階に人々が達してくると、「自由」という意識や、個人の権利といった概念が重視されてくる(自由とは「自己中心」と似て非なるもので、他人や社会に配慮しながら、自らの権利も尊重することによって生まれる概念である)。

 こうなれば社会全体として、「規律に縛られ、差別され抑圧されていた人たち」を解放しようという気運が高まってくる。このように意識や文化が成熟していく姿に、人は感動を覚え、深い共感を伴うのだ。

 大変分かりやすいシーンが、アーロンパーク編でナミを救いに駆け付けるシーンだ(コミックス8 ~11巻参照)。魚人たちに支配され「個人の権利が抑圧されていた」村の人々を、ナミは長年かけて必死に救い出そうとする。しかし、卑劣な裏切りによってどうしようもなくなったナミが、ルフィに対して「助けて」の言葉をようやく発する。

「当たり前だ!」と主人公のルフィが駆け出すシーンは、オレンジ型ヒーローの典型的な姿だといえるだろう(筆者はワンピース全編を通してこのシーンを一番好んでいる)。


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