2024年7月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年7月31日

 現在の戦時国際法においては、軍隊、その装備、その補給路など、敵の軍事力を減殺する攻撃は許されるし、その際に文民施設に害が及ぼされることも許される(軍事的な必要性との比較考量の問題はある)が、敵の軍事力の強化に資さない純粋民間施設を攻撃することはいわば戦争犯罪であり、許されないと考えられる。穀物輸送船は民間船であるので、攻撃して良い対象ではない。ただし、その輸送船が武器などの搬入のために使われていれば別である。

 ロシア側はウクライナの港に向かう船舶は軍用品を運んでいると「みなす」と声明しているが、そういう「みなし声明」をしたからといって、攻撃が戦争犯罪にならないことにはならない。

 こういうロシアの声明に対しては、黒海穀物合意の他の当事者、トルコや国連がウクライナの港に向かう船舶を調査し、軍用品を運んでいないと確認した上で、それをロシアに通報することにすればよいと思われる。それでもロシアが攻撃するというのであれば、戦争犯罪として国際刑事裁判所で調査をし、処罰に向けた手続きに乗せていくべきだろう。また、海軍護衛作戦を発動するのも一つの手であると思われる。

エルドアンが説得するも復帰は望み薄か

 ウクライナ側はロシアに対し黒海経由でクリミアやロシアの港に向かう船舶は軍用品を運んでいるとみなすとの同じような対応策を7月21日に発表した。ロシアの黒海艦隊は旗艦モスクワがウクライナの対艦ミサイルで沈没させられており、弱体化している。しかし、まだそれなりの艦隊ではある。黒海に戦場をむやみに拡大することは良いこととは言えない。

 トルコのエルドアン大統領やグテレス国連事務総長がロシアの肥料輸出も穀物輸出も伸びていることを材料に、プーチンの今回の横暴なやり方はロシアの利益にもならないと説得してくれることが期待されるが、プーチンはなかなか後に引けないような瀬戸際外交をやっており、そう簡単には降りられないだろう。ロシアは自業自得で袋小路に入っているが、ここには昔の大国の判断能力は見られない。

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