ゼレンスキーは即時の加盟が認められないことは元より、加盟に至る明確な行程表・時刻表が示されないであろうことは分かっていた筈である。にもかかわらず、彼は首脳会議への途次、不満をツイートした。彼は、加盟はおろか加盟の招請についてすら日程表が示されていないことを「先例がなく馬鹿げている」と述べ、招請について「条件」が付加されたことを不快がった。
首脳会議の声明には「同盟国が合意し条件が充たされた時に、われわれはウクライナに同盟に加わるよう招請できる立場となろう」とある。「加盟」であれ、「招請」であれ、「条件」が充たされることが前提とならざるを得ない。「条件」には、NATO事務総長が記者会見で説明しているように、ウクライナの防衛体制の近代化とガバナンスの強化という問題とは別に、ウクライナがロシアと戦争状態にあるという問題がある。後者の問題は単純な問題ではない。どういう形で戦争は終わるのか? 北大西洋条約第5条により加盟国は集団防衛にコミットしているが、戦争がどういう形で終わるか分からない現在、集団で防衛すべきウクライナの国境はどこなのか、基本的なことが不明である。特に、戦争が終息するとしても、「凍結された紛争」の形が最も蓋然性が高いと見られる状況では、加盟の可否についてすら確たることは言い得ない。
G7の枠組みによるウクライナ支援
首脳会議のもう一つの重要な議題はウクライナに対するNATOの支援を長期的に確固たるものにすることであった。米国やドイツは、加盟問題よりも、この支援の問題に首脳会議は焦点を当てるべきことを主張していた。その成果がG7首脳による「ウクライナ支援に関する共同宣言」という文書である。この文書は軍事的支援、復興・復旧を含む経済的支援あるいはガバナンス改革のための支援など、多方面にわたる支援を列挙し、この多国間の枠組みの下で、G7それぞれがウクライナとの間で二国間の長期的安全保障のコミットメントを取り決めるための交渉に入ることを表明している。従って、どれほど強力な支援が約束されるかは二国間の取り決めにかかっているが、重要な進展と評価できよう。
このエコノミスト誌の社説は、米国が、台湾関係法に倣い、ウクライナ支援を法制化することを提案している。共和党はウクライナ支援に否定的な勢力ばかりではないが、法制化は無理な相談である。バイデン政権にそのような試みに精力を費やす余裕があるとも思われない。目下の米国の優先順位は、議会の支持も得てウクライナの反転攻勢の成功のために武器支援を強化することにあるはずである。