トランプの次の一手
3件で起訴されたトランプ前大統領は、次にどのような手を打ってくるのだろうか。
トランプ陣営は早速、「トランプ大統領とトランプ支持者に対する非合法の迫害は、1930年代のナチス・ドイツおよび、旧ソ連やその他の権威主義的な独裁政権を想起させる」という声明を出した。同前大統領は今後も、独裁的なバイデン政権による「犠牲者」として自分を描き、選挙資金を集めるための「道具」として、起訴を多いに利用することは確かだ。
実際、起訴されると、トランプ前大統領は即座に、陣営のSNS(交流サイト)のトップページでビデオメッセージを流して、支持者に献金を求めた。選挙費用に加えて、膨大な訴訟費用がかかるからだ。
消えた「裁判」と「選挙」の境界線
さらに、トランプ前大統領は裁判における「トランプ氏弁護団VS.検察」という対立構図を、「トランプVS.バイデン」にすり替えて、選挙を戦う可能性が高い。本来、特別検察官と大統領の間には距離がある。バイデン大統領は、ジャック・スミス特別検察官の捜査に関与していないと言い続けている。
しかし、トランプ前大統領はスミス特別検察官とバイデン大統領を結び付け、彼らが「共謀」して、自分を起訴したかのように演出するだろう。スミス特別検察官をバイデン大統領の「共謀者」に仕立て、「共和党予備選挙で独走する自分を引きずり下ろすために起訴した」と、支持者にアピールするのだ。
「裁判」と「選挙」は全く別物だが、トランプ前大統領は双方の境界線を消して、ブレンドするという前代未聞の選挙戦略をとっている。この点は看過できない。
世論の動向
トランプ前大統領が起訴される直前に行ったエコノミストと調査会社ユーゴヴの共同世論調査(23年7月22~25日実施)では、「ドナルド・トランプは、2021年1月6日の出来事で刑事責任を問われるべきと思うか」という質問に対して、全体で44%が「はい」、41%が「いいえ」と答え、「はい」が「いいえ」を3ポイント上回った。
ただし、党派別にみると、民主党支持者の76%が「はい」、7%が「いいえ」と回答したのに対して、共和党支持者は「はい」がわずか7%で、「いいえ」が86%に達した。約9割の共和党支持者は、トランプ前大統領が米議会議事堂襲撃事件に関して、「刑事責任を問われるべきではない」と考えているのだ。
ということは、今回の3件目の起訴で、共和党予備選挙におけるトランプ前大統領の支持率が大幅に低下し、首位の座から落ちる可能性はかなり低いとみていよい。
共和党は8月23日にウイスコンシン州で、第1回目のテレビ討論会を開催する。モーニング・コンサルトが共和党予備選挙に出向く可能性がある有権者を対象に行った全国世論調査(23年7月28~30日実施)では、トランプ前大統領が2位のロン・デサンティス南部フロリダ州知事を43ポイントもリードした。
トランプ前大統領は、共和党テレビ討論会への参加を約束していない。党内のライバル候補に対して支持率で独走しているので、参加のメリットが少ないからだ。
仮に、トランプ前大統領がテレビ討論会に参加しなかった場合、支持者を集めた大規模集会を開いて、「バイデン政権は司法省を武器化し、私を起訴して、選挙に介入した」と訴える公算が高い。
短期的にみれば、選挙戦略に起訴を組み入れたトランプ前大統領の戦略は、確実に成果を上げていると言える。