ここにいたって精神科医は、はたと膝を打った。前者の説明では患者の多くが、「自分の性的出会いのうち三〇パーセントから五〇パーセントが失敗に終わるのだろう」と思っていたと、気づいたのである。
医師が話したつもりのことと、患者が聞き取ったことには往々にして、こうしたズレが生じる。
その大きな原因は、パーセントで表される確率をどう判断していいかわからないからだ、と著者はいう。要するに、「数字オンチ」なのである。
ところが、同じ情報を、著者が「自然頻度」とよぶ数字に置き換えると、あら不思議、数字オンチの頭の中に立ち込めていた霧がさっと晴れる。
検査結果が「陽性」でも悲観するな
もうひとつ、例を挙げよう。
40歳になって初めて乳房X線検査(マンモグラフィー)を受け、「陽性」という結果が出た場合。
乳がんの症状もなく、近親者にがん患者がいない女性でも、40歳になると2年に1度は乳房X線検査を勧められる。私の元へも再三再四、区役所からの検診のお知らせが届く。ここだけの話、臆病な私は長年検診を避けている。
それはともかく、結果が陽性といわれたら、かならず乳がんなのだろうか。
乳がんである確率を知るために、著者が示す二つの情報を比べてみよう。
<四〇歳の女性が乳がんにかかる確率は一パーセントである。また乳がん患者が、乳房X線検査で陽性になる確率は九〇パーセントである。乳がんではなかったとして、それでも検査結果が陽性になる確率は九パーセントである。さて、検査結果が陽性と出た女性が実際に乳がんである確率はどれくらいか?>
このようなかたちで情報を与えられると、数字に弱い私はもとより、自分は数字オンチでないと胸を張る方々でも、霧にまかれたように感じるのではないか。
では次に、著者の勧める「自然頻度」に置き換えてみる。
<一〇〇人の女性を考えよう。このうち一人は乳がんで、たぶん検査結果は陽性である。乳がんではない残りの九九人のうち、九人はやはり検査結果が陽性になる。したがって、全部で一〇人が陽性である。陽性になった女性たちのうち、ほんとうに乳がんなのは何人だろう?>