2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月7日

 そして、最近、バイデン政権が米国人人質の解放と交換に米国の対イラン制裁による60億ドルの資金の凍結解除を行う一方で、戦闘機の増派、米海兵隊のペルシャ湾内を航行する商船への同乗を進めており、この構想が実現するまでの間イランを大人しくさせるための飴と鞭だというのも、恐らくその通りであろう。

 しかし、そうは簡単に問屋が卸すだろうか。ミード教授も、イランの反発、米国内の反対、サウジ・イスラエル関係正常化に際してのパレスチナ問題の扱いなどを指摘している。まず、パレスチナ問題については、最近、サウジがパレスチナ問題担当特使を新たに任命したのは、サウジがパレスチナ側の落とし所を探ろうとしているためかも知れないが、ネタニヤフ首相が率いるイスラエルの極右宗教政権が、パレスチナ問題についてサウジ側の面子が立つような譲歩を行えるのであろうか。しかも、バイデン大統領とネタニヤフ首相、ムハンマド皇太子の2人との関係が最悪であることも、仲介者としての米国の役割をかなり制約しよう。

そのアイデアは美しいが……

 そしてイランの反発が最大の問題であろう。8月18日にイランの外相がサウジを訪問し、ムハンマド皇太子と会談したが、早速、イラン側がサウジにイスラエルと関係正常化しないように釘を刺したことは容易に想像出来る。また、イスラエルとペルシャ湾岸のアラブ諸国が一致してイランの脅威に対抗するというアイデアは美しいが、具体化するには時間が相当かかるであろう。それまで間、凍結資金の解除や米軍の増派のような飴と鞭でイランを抑え込め続けられるとは思えない。

 バイデン政権は外交交渉によるイラン核合意再開を諦めていないが、イラン側には交渉する気はないと見られる。数カ月前、オマーンでの核合意再開のための秘密交渉がリークされたが、その後、全く続報がない。イラン側が濃縮ウランの濃度を下げたとかいう報道が最近出たが、これが何らかの進展を示唆しているのか。イラン側の何らかの戦術の可能性も高い。

 そう考えると、バイデン政権の本音は、ともかく来年の大統領選挙までペルシャ湾で問題が起きないようにするための時間稼ぎであり、サウジ、イスラエル、イランもバイデン政権の弱みにつけ込んで、取れるだけのものを取っておこうとしているだけの狐と狸の化かし合いではないだろうか。

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