リテール決済システムの
連携で進展
そうした中、特にスピード感で目を引くのは冒頭で挙げた金融分野、特にリテール決済の連携である。金融分野では、「2025年AEC金融統合に向けた戦略的行動計画」に加えて「ASEAN決済コネクティビティー」構想(19年4月)に基づき、域内におけるクロスボーダーのリテール即時決済システム(RT−RPS)の接続やQRコード決済の連携を含む協力を進めている。ASEAN各国では、政府や中央銀行などが、スマートフォンで利用可能な決済インフラの整備やQRコード規格の統一化、本人確認のためのデジタルIDの導入・普及を進めてきており、こうした既存の決済システムを国をまたいで相互連携する取り組みとなっている。
域内では、出稼ぎや観光を目的とした人の往来が多く、安価かつリアルタイムでの送金・決済ニーズは高い。クロスボーダー決済接続の実現は、送金などの金融面にとどまらず、貿易や投資、その他の経済活動を支援・促進し、零細・中小企業を含む企業にとってのビジネスチャンス拡大につながることも期待されている。
RT−RPSについては、21年4月にシンガポールの「PayNow」とタイの「PromptPay」が相互接続し、携帯電話番号のみ、かつ低コストでの送金が可能となった。こうした電話番号のみで国をまたぐ個人間の送金が可能になったことは、世界的にみても、先進的な取り組みと評価されている。
参加銀行間であれば、送金相手の電話番号をスマートフォンのアプリに入力するだけで、24時間365日、数分以内かつ安全に送金を行うことができる。通常の送金手段で必要とされる1~2営業日から大幅に時間を短縮できるほか、夜間や休日のような金融機関の営業時間外でも手続きを行うことができる。
送金手数料は、サービスを提供する金融機関がそれぞれ設定することができ、現状シンガポール側では多くの金融機関が、キャンペーンで手数料を無料(タイ側では1回あたり150バーツ≒約600円程度)としている。日本の銀行(インターネット経由)で海外送金にかかるコスト(為替手数料を含む)の2000~3000円を大きく下回る。送金を実行する前に送金手数料とともに適用為替レートも表示されるため、そのまま送金を続けるか判断することもできる。
また、一定額以上の送金に関しては、ワンタイムパスワードによる2段階の認証が求められるなど、セキュリティー面でも強固なシステムとなっている。23年内には「PayNow」とマレーシアの「DuitNow」の接続も予定されているほか、シンガポールやタイなどを中心にQRコード決済を連携する動きも相次いでいる。
今後ASEANは、「AECブループリント2025」に基づく統合・協力の推進により、市場としての一体性を高めることが期待される。さらに近年は、「ASEAN中心性」を掲げ、ASEAN10カ国のほか、日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランドの15カ国が参加する「地域的な包括的経済連携(RCEP)」(22年1月発効)をはじめとするアジアにおけるさまざまな地域統合・連携で主導的な役割を果たしつつある。
地政学リスクの高まりやコロナ禍でのサプライチェーン停滞などを受けた企業のサプライチェーン見直しや多元化に向けた動きの中で、ASEANは有力な投資先となっており、企業のアジアを中心とする成長戦略にとってASEANの重要性は増すことが予想される。
日本企業は、これまで製造業を中心とする生産ネットワークの構築やインフラ整備などを通じてASEAN諸国の経済発展を支えてきたが、今後も、ASEAN諸国の産業高度化やエネルギー・トランジションなど新たな課題の解決に向けて果たす役割への期待は高い。
加えて、ASEANでは、デジタル技術を活用したスタートアップの急成長などもあり、日本企業と現地のスタートアップ企業との協業や人材交流の動きも活発化しつつある。こうした双方の強みを活かすことで、さらなる成長が期待できよう。