2024年7月16日(火)

Wedge2023年10月号特集(ASEAN NOW)

2023年9月21日

ASEANにおける
経済統合の進捗

 15年末にAECが発足した。先立つ同年11月の首脳会議で、新たな目標「AECブループリント2025」を採択、5つの戦略目標と30の主要分野などを提示した。17年2月に承認された具体的な実行計画「AEC2025統合戦略的行動計画」 (18年改定)に基づき統合を進めている。

 物品貿易に関しては、10年1月に先進ASEAN加盟国6カ国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)、15年1月には新規加盟4カ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)でも、ほぼ全ての関税を撤廃(残る品目も18年1月までに撤廃)するなど、貿易自由化の点では高いレベルでの経済統合が実現している。他方、非関税障壁のほか、サービス貿易や投資などの分野では自由化が遅れており、こうした課題に引き続き取り組むことにより、統合のさらなる深化を目指している。

 貿易分野では、域内の貿易関連手続きの電子化など、長年の課題で前進が見られている。特に、「ASEANシングルウィンドウ(ASW)」は、ASEAN進出日系企業がAECで最も期待する事項として長年指摘していた「税関手続きの簡素化」につながるものとして評価される。ASWは、各国の通関手続き窓口を一本化・電子化したナショナル・シングル・ウィンドウ(NSW)を各国間で相互に接続し、電子データの交換を行う電子プラットフォームである。従来、国ごとに異なる紙の書類を複数の窓口に提出し、通関担当者に通関手続きが左右されるケースも少なくなかったが、NSWおよびASWにより各国の通関申請書が統一化され、一回のデータ入力・送信で諸手続きを行うことができ、通関手続きにかかる時間やコストの削減、透明性の向上が見込まれる。

 サービス貿易については21年4月、「ASEANサービス貿易協定(ATISA)」が発効した。この中で、内国民待遇、最恵国待遇、市場アクセスといった、投資を行う企業が受けることができる待遇やサービスを提供する際の権利・義務などに関する具体的な規定が盛り込まれた。

 その他、各国が自由化するサービス分野(例えば、エンジニアリングサービス、建築サービスなど)を限定的に列挙する「ポジティブリスト」方式に代わり、自由化の対象としない分野のみを記載する「ネガティブリスト方式」を採用したことなどにより透明性・自由化の点で改善した。

 また、従来の「ASEANサービス枠組み協定(AFAS)」では、ASEAN企業の外資出資比率が70%に制限されていたが、ATISAでは出資比率の制限が禁止されており、今後、完全自由化(外資100%)が認められるかが注目される。ただし、ネガティブリストの公表は国ごとに数年~十数年ほどかけて行われるなど、域内の経済格差や国内事情を考慮し、自由化までにはまだ時間を要する。

 このほか、投資については、「ASEAN包括的投資協定」および修正議定書、人の移動についても、「ASEAN自然人移動協定」が既に発効している。これにより、AECにおける物品(財)、サービス、投資、人(熟練労働)の自由な移動に向けた法的枠組みが整ったと評価される。

 ただし、人の移動に関して、自由化は限定的な内容にとどまっており、対象はあくまで熟練労働者に限られる。商用目的での訪問者や契約に基づくサービス提供者、社内異動者(役員・管理職・専門職)などが想定されている。対象は、ASEAN加盟国が専門サービス資格の相互承認取り決めを締結している8分野(エンジニアリング、看護、測量、建築、会計、医療、歯科、観光)に限られ、フィリピンからシンガポールなどへの就労者が多い家事サービス(いわゆるメイド)などは対象には含まれていない。

 さらに、該当資格を保有していても、実際に査証(ビザ)や労働許可が発行され、就労できるかは、受け入れ国の現行規定(国籍や居住等の条件等)や状況に基づいて判断される。例えば、国内の試験で合格した建築士は、加盟国の規制当局にASEAN建築士として申請・登録することができるものの、国内に適任者がいない場合に限り就労の機会が得られるといったケースも少なくないとみられるなど、人の「自由な」移動のイメージとは距離がある。


新着記事

»もっと見る