バイデン政権は6月にもイラクに対し、イランへの27億ドルの支払いを認めており、今回の資金解除に向けての布石を打っていたようだ。イランが制裁で凍結されていた資産を取り戻したのは「ライシ大統領の勝利」(イランメディア)と言えなくはないが、使い道が人道目的に限定されている条件を呑んだのはなぜか。
それは来年の米大統領選挙でトランプ前大統領の復活をなによりも恐れたからだ。イランにとってトランプ氏は2018年に核合意から離脱し、対イラン制裁を強化した張本人。核合意の再建協議で「米国が政権交代しても破棄されないことの保証」を最後まで要求したのは将来の米政権でトランプ氏と同じことが起きることを懸念したためだ。
注目すべき「裏取引」の実態
だが、支持率低迷と民主党支持者からも高齢を理由に「大統領選出馬辞退」の圧力を受けているバイデン大統領にとって、米市民の救済のためとはいえイランへ大幅譲歩したとみられる60億ドルの凍結解除にメリットがあるのだろうか。「それを読み解くにはバイデン政権がイランと合意した『裏取引』の存在を見ることが必要だ」(ベイルート筋)。
「裏取引」とはどんなもので、果たして存在するのか。この情報を最初に報道したのは米新興メディアのアクシオスだ。
6月9日付で、スクープとして「米イランがオマーンで秘密協議」と報じたのだ。その後、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストも後追い報道した。イスラエル国防当局者は「囚人交換は米国とイランの非公式な取り決めの一環」と指摘している。
これら報道によると、両国はこれ以上緊張が激化し、関係が悪化しないよう〝政治休戦〟(イラン当局者)を模索。まとまった「裏取引」では、イランが①濃縮度60%を超える六フッ化ウランをこれ以上製造しない、②シリアやイラクでイラン配下の民兵による米コントラクターへの攻撃を停止させる、③国際原子力機関(IAEA)の査察官への協力拡大に同意といったもの。
これに対して米国は①イランに対しこれ以上の制裁を自粛、②国連やIAEAで核開発に関して新たな懲罰的な決議を求めないことを約束するというものだ。バイデン政権はこの「裏取引」によってイランとの信頼を醸成し、今年後半に核合意の再建協議の開始を目論んでいるという。